ボールは落ちる。
地球との万有引力によって。
屋上で寝転がった状態で、バスケットボールを真上に放り投げては受け、放り投げては受けを繰り返しながら、俺はぼんやりと思った。
休みは模試で潰された。
世間は海外旅行やらドライブやらでてんやわんやだというのに、こんな冷たいコンクリートの校舎の中で紙切れと向き合っていたって面白くも何ともない。
一日目の試験が終わっても、明日の試験の準備の為に友人たちはみな、塾やら自宅やらにいそいそと帰ってしまった。
残された俺は、大人しく帰宅する気も教室で勉強する気も更々なく、手持ち無沙汰に屋上にやってきたというわけだ。
5月第1週の空は光にあふれて、むちゃくちゃ眩しい。
太陽に向かってシュートを打つ。
真ん丸い穴の中に、黒くかげった球体が重なる。
「ナイッシュー・・・」
一人でエールを送ってみても、その声はむなしく途切れるだけ。
くるくると等間隔で回転するボールは美しい。
まるで地球儀みたいだ。
自分の指先から生まれた弧に見惚れてりゃ、世話ないか。
じゅーりょくのほうそく。
えふ いこーる えむ じー。
じーは、じゅうりょくかそくどで、えむは、ぶったいのしつりょう。
あああ、なんのこっちゃ。
俺は頭を掻きむしる。
俺に受けとめられるはずのボールはそのまま地面に落っこちてしまい、ゴム特有の軽い音を立てながら大きくワンバウンドした。
てん! てんてんてんてん・・・
俺はとことん理系向きじゃないな。
中学生レベルの理科ですら、理解不可能だ。
重力によって地面に引きつけられたボールは、向こうの方にころころ転がって、ドアの前でぴたりと止まった。
そのすぐ後ろには、誰かの脚が。
「・・・何だよ」
不貞腐れた俺の声に、悪友は笑みをこぼす。
「まーた物理できなかったからって、拗ねてんじゃねーぞ」
悪態を突かれて、俺は決まり悪くそっぽを向いた。
悪友がボールを拾い上げ、その場でドリブルする音が聞こえる。
最初はゆっくり。でも、だんだん速くなってくる。
何ともリズミカルなボールさばき。
「ほら、パス!」
急にそう叫ばれて、反射的に俺は上半身だけ起き上がった。
タイミングよく胸元に、ボールが飛び込んでくる。
キレのいい回転がかかった、理想的なパスだ。
「腕は落ちてないようだな」
「あったり前だ。これでも勉強の合間に練習してんだから」
「・・・ただの息抜きだろ」
かつてのチームメイトで、今は進学クラスのエースに、俺はパスを返す。
ああ、久しぶりの感覚だ。
俺は密かに、体の奥から何かがうずうずしてくるのを感じていた。
「暇だから相手になってやってもいいけど?」
「まだ何も頼んでねーだろ」
悪友はクックッと笑う。俺は立ち上がる。
5月の空の下に、あの頃の気持ちがよみがえる。
将来のことなどまだ何も考えなくてもよかった頃。
ただ純粋に好きなことを思いっきりやっていた頃。
抗い難い流れの中で俺たちは決まりきった法則に従うしかできないけれど、ほんの数分の一でも融通が利くのなら。
その中で俺たちは、煩わしさから解放され、何ものにも束縛されないひと時を楽しむのだろう。
「先攻後攻みなごろし! し! し!」
ガキくさいかけ声も、あの頃と変わらない。