自販機の行き先 | Between The Sheets ~夢への抒情詩~

Between The Sheets ~夢への抒情詩~

寝る前にちょこっと読んでほしい、素敵な物語をあなたにお贈りします。

 自動販売機のある場所は地面の上と、相場は決まっている。

 ・・・決まっている、はずだった。


 だけど今朝見たら、いつも使っている道端の自販機が、なくなっていた。

 あたしは呆気に取られて、立ち尽くすのみ。




 会社に行く前に、あたしはいつもコーヒーを買う。

 コーヒーくらい家や会社で飲めばいいんだけど、お気に入りの缶コーヒーを買って、バスに揺られながら眠気覚ましに飲むのが、一日が始まる感じがして好きだった。

 それなのに、いきなり。

 

 「ウソでしょ・・・」

 バス停のベンチにぐにゃりと腰かけ、肩を落としてため息をつく。

 いつもお世話になってる自販機が、何の予告もなくいなくなるなんて。

 

 信じられない思いでいっぱいだった。




 一日の出端を挫かれたあたしは、勤務中でも気分はロー。

 「どうしたのぉ?」

 同期の友達に聞かれたけど、これくらいのことで気が抜けてしまうなんて情けないと自覚しているだけに、理由を言えない。


 会社で淹れたコーヒーは、妙に香り高いくせに苦くて、きらい。

 不健康だとわかっていても、あたしはあの缶コーヒーじゃないと、ダメ。




 一日がようやく終わった夕暮れの下。

 あたしはバス停で、帰りのバスを待つ。

 たかだかコーヒーひとつでこんなにテンションが下がるなんて、本当にどうかしてる。

 すっかり項垂れて、気分はますますロー。


 バスはまだ来そうにない。

 あたしはふと、顔を上げた。




 すると、一台のトラックが目の前を走り去った。

 そこの荷台に乗っかっていたのは、紛れもなくあの自販機。


 あっ、と声を上げる間もなく、トラックは遠ざかって行った。

 



 やっぱり撤去されたんだ・・・。

 そんなこと朝見たときからわかっていたのに、実際にその姿を見ると、何だか無性に寂しい。


 夕暮れの空と、トラックの上の自販機。


 最後にひと目見られて、よかったのかな。

 あたしはいつまでも、自販機の行った先を見つめていた。