「卵ってさ」
休日の遅い朝。
ホットケーキを作ろうとしているあたしの側に、彼は寄って来た。
そして、牛乳と一緒に冷蔵庫から取り出した卵を眺めてから、そう呟く。
「上手に割れる?」
「まあ、人並みには」
「ふうん、そっか・・・」
あたしの答えを聞いた彼は、納得したようなしないような表情で軽く頷いた。
「何でそんなこと聞くの?」
卵を片手に取り、あたしはボウルを手に取る。
ちょうど割ろうと思っていたところだっただけに、その心意が気になる。
「俺、未だに上手く割れないんだ」
「上手く割れなくても、中身が取り出せたらそれでいいじゃない」
すると彼は、やんわりと首を横に振る。
「割られるために存在するなんてさ、何か悲しくない?」
あたしは手の中にある、その真っ白な外殻を見つめる。
「卵を割ることでいろんな料理ができる、ってのはわかるよ。だけどいざ割ろうとすると、いつも手がすくむんだ」
「割られる外側が悲しくて?」
「何て言うか、あるべき形を壊さなくちゃならないことに・・・」
卵の概念。
あたしは卵の中身に用があるから、外側のことなんて知ったこっちゃないけれど。
すべすべしていて角のない、この流線型をいとおしく思う人もいる。
「何だか恋愛に似ているわよね」
「え、そう?」
目を丸くした彼を見て、あたしは思わず笑った。