「髪、切ってきた」
待ち合わせの時間に遅れて来た彼はそう言って、ニット帽を脱いだ。
「随分短くしてもらったわね」
あたしは目を丸くして、まだ見慣れない彼の髪型を眺める。
少し長めのウルフカットだった髪は、見事に切り揃えられている。
パーカーを脱ぐと更に、首の後ろがスッキリしているのがわかる。
まあタートルネックのセーターを着ているから、そんなに寒くはなさそうだけど。
「変、かな?」
ウエイトレスが持ってきたチェーサーを飲みながら、彼は戸惑いがちに尋ねる。
大胆なベリーショート。色もほとんど地毛に近い。
実を言うと、あたしは彼のあの少し伸びた髪が好きだった。
サラサラしていて、指で触ると自然に流れ落ちていく、あの感触が好きだった。
茶色の毛先が、陽に透かされて金色に近づくのを見るのが好きだった。
「前の方が、やっぱよかった?」
ほめもけなしもせず黙っているあたしに、彼はますます不安を募らせたような顔で尋ねる。
「ああ、ごめん。何かビックリして」
あたしが慌ててそう謝ると、彼は膨れっ面になって再び帽子を被った。こんどはさっきより、もっと深く。
「どうしてまた被るのよ?」
「だって、似合わないんだろ?」
まるで子供みたいな彼の仕草に、あたしはクスクス笑った。
「バカね、似合ってないわけないでしょ。ほら帽子取って」
あたしの言葉に、彼はしぶしぶ帽子を脱ぐ。
「嫌いか、この髪型」
静電気でくしゃくしゃになった髪を、掌で撫で回す彼。
「前のも好きだったけど、今のはもっと好き」
彼の小さな耳たぶに、銀色のピアスが光っているのが見える。
よっぽど外が寒かったのか、少し赤みを帯びた皮膚。
人前にもかかわらず、あたしはそこに手を伸ばす。ヒヤリとした感触。
「この耳にキスしたいくらいよ」