「キンモクセイの香りがする」
彼女は上を見上げて、そう呟いた。
「え、どれ?」
「ほら、匂うでしょ」
歩道の真ん中にもかかわらず、二人して立ち止まる。
そして両目を閉じ、嗅覚を研ぎ澄ます。
「ホントだ」
キンモクセイの匂いを嗅ぐなんて、何年ぶりだろう。
小学生の頃は通学路でよく、橙色の小さい花を見かけたけれど。
「懐かしい匂いね」
目を開けた彼女は、俺を見上げて軽く微笑む。
つられて俺も、小さく笑った。
「俺も同じこと考えてた」
雲ひとつない、高く、真っ青な空。
黄色く色づき始めた、銀杏並木。
俺と彼女は手をつなぎ、肩を寄せ合う。
少し冷たい風も、二人ならちっとも辛くない。