宇宙空間へ物資や人を運ぶ「宇宙エレベーター」、実現は15年後?
2003年2月10日
http://wiredvision.jp/archives/200302/2003021002.html


Steve Kettmann 2003年02月10日

 スペースシャトル『コロンビア』の惨事をきっかけに、これまでとは根本的に異なるアプローチで大気圏外へ到達する「宇宙エレベーター(画像)」の開発がさらに加速しそうだ。

 宇宙エレベーター構想は、長年にわたってSF作家たちが思い描いてきたものだが、それ以外の人々には到底実現不可能と考えられていた。しかし、カーボン・ナノチューブの設計における飛躍的な進歩にともない、近年この構想は劇的に進展している。軽量で強いカーボン・ナノチューブを使って、エクアドルの西の赤道上に浮かぶ移動式の海上プラットフォーム(画像)から、約10万キロ上方の宇宙空間まで伸びる幅1メートルの「リボン」を建設することは、十分に議論可能だろう。

 このリボンにエレベーター(画像)が取り付けられ、宇宙への輸送に使われるかもしれない。輸送する対象は、衛星、宇宙ステーションの交換部品などで、さらには人を運ぶことも想定されている。専門家によれば、この計画は早ければ15年後にも実現する可能性があるという。

 米航空宇宙局(NASA)の先端構想研究所(NIAC)のロバート・カサノバ所長は、「技術的には実行可能だ。物理学的に何ら問題はない」と語る。

 NIACは米ハイリフト・システムズ社(本社シアトル)に50万ドル以上の資金を提供し、同社のブラッドリー・エドワーズ最高技術責任者(CTO)を中心に構想の実現に向けて検討させている。

 この構想の成否のカギは、地球と大気圏外を結ぶリボンの建設に使われる素材にある。カーボン・ナノチューブは、本質的にはグラファイト――格子状に並んだ炭素――のシートが継ぎ目なく丸まり長い管になったもので、直径は数ナノメートルしかない。鋼に比べ、強度は30~100倍にもなるが、はるかに軽い。

 「カーボン・ナノチューブの開発は急速に進んでいる。地表から約10万キロ先まで伸ばせるほどにはなっていないが、現在多くの研究機関がこの問題に取り組んでいる」とカサノバ所長。

 欧州宇宙機関(ESA)の上級技術移転担当責任者、デビッド・レイット氏は、問題は宇宙エレベーターを建設するかどうかではなく、建設にどれくらい時間がかかるかという点だけだと考えている。

 「『ジャックと豆の木』のようなものだ」とレイット氏は語る。「このリボンが、くねくねと宇宙まで10万キロ伸びていると考えればいい。幅は約1メートルだが、紙と同じくらい薄い。これを見るためだけでも人が集まってくるはずだ」

 エドワーズCTOは、宇宙エレベーターを使えば、1キログラムあたり約100ドルの費用で物資を宇宙に運べるだろうと話す。同CTOの試算によると、スペースシャトルでは1キログラムあたり1万ドルから4万ドルかかっているという。したがって、たとえば太陽エネルギーを集める巨大な装置を建設するために、資材をエレベーターで宇宙に送るといったことが、手頃な費用で可能になるかもしれない。

 「アフリカ諸国が太陽発電衛星を宇宙に送れば、そこで得たエネルギーを利用して井戸を掘り、水を汲み上げ、経済を発展させられるかもしれない」と、エドワーズCTOは語る。

 米BPソーラー社の事業開発部門で上級マネージャーを務めるビル・リーバー氏は、エドワーズCTOと接触したことがあり、この宇宙エレベーター構想は「実現する可能性が非常に高い」と話す。

 リーバー氏は次のように語る。「[ハイリフト・システムズ社が]潜在的な技術上の問題を実に細かいところまで分析していることと、彼らが提案している解決方法に深い感銘を受けた。彼らはこれまで多くの課題をこなしてきたし、その成果ははっきりと現れている。ただちょっとしたアイディアがあるだけの集団、といったレベルをはるかに超えている。実現可能な、実際的な工学の水準にあることは間違いない」

 エドワーズCTOは現在、世界中に散らばる仲間とともに、この計画における研究開発以外の問題にも取り組んでおり、エレベーターの建設に必要な100億ドルの資金を集めるため、新たな投資家を探している。資金の一部は、宇宙旅行(日本語版記事)の開発に関心をもつ企業から得られるかもしれない。

 「宇宙エレベーターがあれば、宇宙空間で観光事業を展開したり、小都市を建設したりすることが容易になるだろう。宇宙エレベーターは本質的に、全世界が参加できるものなのだ」とエドワーズCTOは語った。

[日本語版:近藤尚子/高森郁哉]

WIRED NEWS 原文(English)