厳しい成果主義の中で自分のワークとライフのバランスを見つけられなければ、場所を変えればよい
――IT企業の経営者らがITエンジニアのキャリアについて語るカンファレンスがパソナテックの主催で開催された。
http://builder.japan.zdnet.com/news/story/0,3800079086,20379656,00.htm


パソナテックは8月30日、東京・秋葉原で「ワークスタイルイノベーション2008 ~エンジニアの楽しい未来を考える~」と題したカンファレンスを開催した。「エンジニアのキャリア創造カンパニー」を標榜する同社は今年、創業10周年の節目の年を迎えている。

 本カンファレンスには、パソナテックの代表取締役社長 森本宏一氏、ブログソフト「Movable Type」で著名なシックス・アパートの代表取締役 関信浩氏、マーケティング支援企業のネットイヤーグループ代表取締役兼CEO 石黒不二代氏、特徴ある社会貢献活動で知られるアパレルメーカーのパタゴニア日本支社副支社長 辻井隆行氏が登壇。どのパネラーも多彩な経歴の持ち主だ。

 司会は雑誌「オルタナ」編集長の森摂氏。「ワークスタイル」をテーマにディスカッションを始めた。

ワークとライフは対立しない
 「仕事と生活の調和」ともいわれる「ワーク・ライフ・バランス」。森氏は「ワーク」と「ライフ」のバランスだけが重要ではないと指摘する。

シックス・アパート代表取締役 関信浩氏  関氏は、自分がやってみたいことを見つけたときには、難しい方を選択してきたと自身のキャリアを振り返る。事実、シックス・アパートへ参加した際にも、周囲からはブログなど流行らないと言われたそうだ。しかし、ブログを「使ってもらいたい」という情熱が、今日まで関氏を支えてきたという。

 つまり、ワークとライフを対立軸にするのではなく、ワークの充実はライフの充実にも繋がるのではないかというのだ。

 森本氏は、ほとんど会社に住み込むかたちで仕事に打ち込んでいた自身の20代を紹介し、「体力的にはキツかったが仕事に没頭している」という充実感があったと語る。ワークとライフのバランスは「日々の達成感が継続して続くのが一番幸せ」だという。「子どもと目を合わせて『この飯うまいねー』といえるのも幸せ。社員が喜んでいる顔をみてると『たまんねーなー』と思う」。

 「上場したとき(のパーティーで)、樽を割って、抱き合って、酒をかけあって……笑顔の数だけ幸せだな、と」(森本氏)

ネットイヤーグループ代表取締役兼CEO 石黒不二代氏  石黒氏も「ライフが充実していないとなかなか仕事もうまくいかなかった」という。また、同氏は「私は仕事も子育てもしたかった」という思いが出発点だったそうだ。個々人がバランスを取ろうとするのは当然だが、しかしそれができないのであれば「場所を変えたらいい」ともいう。

 子育てのために、あるいは資格・試験の勉強のために早く帰宅したくとも、同僚が遅くまで残っていて帰りにくい――そんな声をよく耳にする。

 こうした状況を変えるために自分が社内のバランスを変えるような原動力になるのも選択肢の一つではあるが、「無理はしないで」と語っている。

「どこで働くか」ではなく、「どこに住むか」
 
アドビシステムズに在籍していたことがある石黒氏は、「(アドビでは)みんな出社してこない。出社するとエンジニアはサポートが大変だから。成果を出すためには在宅で仕事をする」と、外資系企業ならではとも言えるエピソードを披露。自宅で作業する社員にはネット回線にかかる費用をアドビがある程度負担するなど、様々な点で会社のサポートがあるのだという。

 シックス・アパートの社風はこのエピソードと好対照だ。関氏によれば、米国でシックス・アパートが立ち上がった頃、社屋は空港の近くにあり、車でなければ通勤はほとんど不可能だったという。当時の社員は30名くらいで、30才以上は2人しかいないという、言葉の両面で若い会社だった。

 社員の年齢が若ければ車を持っていない者もおり、そうすると出社せずに自宅で作業をするようになってしまう。しかし創業者は、出社して一緒に仕事をしてほしいというポリシーを持っていた。そのため、シックス・アパートはサンフランシスコのダウンタウンに社屋を移転したという。

パタゴニア日本支社副支社長 辻井隆行氏  森本氏はシリコンバレーに支社を設立した際に、当地のエンジニアから「自分のライフスタイルのために住む地域を決めて、それから(職を)探すことが多いと聞いた」という。

 このエピソードに森氏は「住むところから決めるというのは面白い」と即座に賛同していた。

 ユニークな社会貢献活動で知られるパタゴニアの辻井氏は、「ゴールを自分の中に見つけたらいい」と語る。氏の趣味であるサーフィンをたとえに、あの人は7時から8時まで波に乗り、主婦は9時からずっと波に乗っていてズルいと、「人と比べ始めたら面白くないだろう」と話している。

 辻井氏は、サーフィンもカヌーも登山も好きで40才を超えてしまった人をたくさん知っているとも語り、会場を笑わせたが、一方で「(だからこそ)自分が好きなこと、やりたいことを徹底的に、自分なりに考えてほしい」ともいっている。


自分のスタイルを人生の軸に
 このディスカッションはあっという間に2時間を経過したのだが、質疑応答の前にそれぞれのパネラーが自身のワークスタイルを確立するためのアドバイスを披露した。

 関氏は、日本社会は「この人はこうなるべき」とか、「この役職の人はこうあるべき」ということが多いため、そのような状況で自分を追い込んで悩まずに、一歩引いて考えることを提案している。「普通の人からみると、なぜそんなことで悩んでいるの?と思われることもあるだろう。どんな視点でもいい。それがもしかしたら転職かもしれないし、新しい部署に行くことかもしれない」

 石黒氏は「有形無形のうちに自分がとらわれている枠組みがある。なにかを考える時に、その枠組みを取り払ってほしい。失敗はしたらいいと思う。なぜなら、成功のポートフォリオには必ず失敗も含まれているから。だから失敗をおそれないで」とアドバイス。

 辻井氏は「日本の会社では9時から5時まで座っていれば仕事をしていると思われるが、(パタゴニア創業者の)イヴォン・シュイナードは、それではダメだと言っている」と語り、パタゴニアのコアバリューの1つである、既成概念にとらわれないことの重要性を指摘した。

 森氏は最後に「ワークスタイルをイノベイトするために、個人はどうすればよいか?」という質問を森本氏に投げかけた。

 森本氏は「人の言うこと、人の評価って気にはなる。でも、自分の好きなことや、やりたいことが先にある。自分のパーソナルスタイルを人生の軸の一つに据えると、なにか悩んでも帰るところがある」と語り、「(軸となる)羅針盤を持つこと」の大切さを訴えていた。