ニコラス・カー氏、クラウド・コンピューティングのメリットと課題を語る
11月21日13時41分配信 Computerworld.jp
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081121-00000001-cwj-sci

ニコラス・カー氏

 ITの役割の変化に関する数々の論文や著作で名を知られるニコラス・カー氏は、11月11日に米国フロリダ州で開催された「SIMposium 08」コンファレンスの基調講演を終えた後、Computerworld編集部のインタビューに応じ、クラウド・コンピューティングへの移行のメリット、ならびにIT部門幹部が直面する数々の問題について語ってくれた。

――Amazon.comの「EC2」および「S3」、また一部の「Google Apps」などのクラウド・サービスではこれまで何度もサービス障害が発生している。これではフォーチュン1000企業のCIOもクラウドの信頼性に懐疑的になるのではないか。

 いい質問だ。実際のところ、Amazon.comとSalesforce.comの稼働率を全体的に見ると、かなりいいレベルに達しているが、100%信頼できる企業内システムが存在しないのと同じように、Amazon.comやSalesforce.comといったクラウド・サービスが100%の稼働率を達成するのは不可能だろう。

 それでも時間の経過とともに、これらクラウド・システムの信頼性は着実に向上していく。そして最終的には平均的な企業システムの信頼性よりも高くなるはずだ。

 これから、いろいろな業務がそれぞれに異なる段階でクラウドに移行していくことになるだろう。その際の基準の1つとなるのが、そのシステムに求められる信頼性の高さだ。

 先日、情報局を含む連邦政府のCIOたちと話をする機会があったのだが、確かに、完全な防備を要するシステムもある。企業や政府が安心してこうした種類のアプリケーションをクラウド環境に移行できるようになるまでには相当の時間がかかるだろう。

 しかし、Amazonのインフラにしても、多様なSaaS製品にしても、すでにその多くが企業アプリケーションとして十分対応できる信頼性のレベルに達している。

――セキュリティと信頼性に加えて、IT幹部が持つ最大の懸念の1つは、特定ベンダーのクラウド・サービスに囲い込まれてしまうのではないかということだ。それを避けるためのアドバイスをいただきたい。

 サービスを購入する側は、(特定ベンダーに)じばられないように注意する必要がある。異種ベンダー間で容易な移行を実現するために必要な相互運用性と標準データ・フォーマットを確保したいのなら、顧客自らがベンダーにその旨を伝え、要求すべきだろう。

 クラウド・ベンダーと取り引きする際に顧客がその条件を出さなければ、おそらく標準化について多くのベンダーに言いくるめられ、結局、移行が困難になってしまう可能性もある。

――CIOは、Microsoft、Googleなどの大手ベンダーが今後クラウド市場を支配する可能性を危惧しなければならなくなってしまうのか。

 クラウド、あるいはコンピューティング・ユーティリティ業界の究極の構造がどのようなものになるかについは、今の時点で明確な答えを出すことはできない。

 しかし、少なくともクラウドのインフラ部分に関しては、巨額の投資を要する運用形態になることは明らかだ。そうなると、年間何十億ドルもの資金を投じることができるGoogleやMicrosoftといった巨大ベンダーの姿が見えてくる。クラウド・ネットワークの構築に必要となる投資額を考慮すると、資金力のある限られた数のベンダーの市場になることが予想される。

 これは、ある種の危険信号を意味すると同時に、「そのインフラ上に置くサービスやアプリケーションがどうなるのか」という別の問題にも突き当たる。サービスやアプリケーションが(インフラとは)別のビジネスとして成立して多くのプロバイダーがひしめき合うのか、それともGoogleなどの大手ベンダーがそうしたビジネスまでも吸い上げてしまうのかということだ。

(Thomas Hoffman/Computerworld米国版)