米クライスラーが、手堅い再建案を提示した直後に、チャプター11を申請した。
チャプター11を解説すると長くなるので避けるが、要すれば裁判所の監視の下、財産を保全して、裁判所も納得の再建案を立てて、それを実行して倒産を防ぐものであり、日本の民事再生法もしくは会社更生法に似ている。
イタリアのフィアット社が手を差し伸べるようなそぶりであったし、再建案を政府もしくは議会に対して指し示すということは、自力再建を目指して債権者とも折り合っているのだとばかり考えていた。
ところが、先日お会いした世界的ファンド管理の専門家の話では、「どうもチャプター7申請らしい」とのことだったので、驚くと同時にまさかと感じていた。その翌日のチャプター11申請であったのだ。
因みにチャプター7とは、11よりも裁判所が強制的に動く処理で、日本で言えば破産法申請に似たものだ。
まぁ、チャプター11もチャプター7も、「連邦倒産法」の規定なので、倒産は倒産なのだが。。。。
結論的には、チャプター7にならないように、そしてチャプター11をスムースに裁判所が認めてくれるようにという考えで、クライスラー社は債権者の目眩ましをしてでも、再建案を指し示したのであろう。
問題は、チャプター11での再建計画が承認されて認可を受けたとしても、クライスラーが立ち直れるのかということであろう。
卑見ではあるが、かなり難しい道ではないかと思う。
何故なら…
クライスラーにせよGMにせよ、どうしてこのような状態になったのかということを考えてみればわかるのではないか。
リーマンショック以前から、かなり酷い状態であったのだから、その本質的原因は「売れるクルマを作れていない」ということになるからである。
アメリカが土地バブルに浮かれている時から、クライスラーの開発陣は、会社の規模に見合った売れるクルマを作れていないのだから、財政的な再建をして、債権者が債権を放棄してくれたとしても、会社の規模を縮小したとしても、会社が立ち直るという意味では、かなりの問題が残っているということである。
フィアット社が、これからのアメリカ市場では最も重要な小型車のノウハウを持っていると言う意見もある。
しかし、フィアットそのものが、フェラーリやアルファロメオ(共にフィアット傘下の企業)は兎も角、小型車が好調とは言えないし、数年前まで自分が倒産寸前であったことも想起すべきであろう。
趣味性の高いクルマならまだしも、アメリカ市場で受け入れられていないフィアットの小型車ノウハウと、売れていないクライスラーの従来的ノウハウで、これから売れるクルマを開発していくという形は、自分にはどうしても想像出来ない。
これからハイブリッドや電気自動車への移り変わりが取り沙汰されている自動車業界で、新しいクライスラーの体制が、中国・韓国・日本等のメーカーに比肩して技術やコストで太刀打ち出来なければ、再び同じような危機が到来することだろう。
また、GM同様、高い労働コストと健康保険コストの問題も頭が痛いことだろう。
健康保険の問題は、アメリカ政府自体の最大の問題の一つでもあるのだが、クリントン政権時代から大騒ぎされているものの、一向に有効な手段は見つかっていない。
オバマ政権も、最大の公約の一つとして掲げてはいるが、これを「痛みの伴う改革」として行うことは、財政が悪化しつつあるアメリカ政府にとっては、かなり重く難しい課題として残り続けることだろう。
いずれにしても、従来の延長線上では考えられない時代が訪れてしまったことだけは確かなことだと自覚する必要があるのではないだろうか。。。。。
雪風拝