BOYS END SWING GIRL、大特集!!
10月某日、千葉県にある某リハーサルスタジオには、その日も彼らが練習する姿があった。千葉県の成田市で産声を上げて8年、BOYS END SWING GIRLは今、さらなる大きなステージへと飛び立とうとしている―。そんな彼らに、ライター三浦智文がインタビューを慣行。この記事ではその様子を掲載する。
インタビュー・文:三浦智文(Twitter:@xxxtomo1128xxx)
BOYS END SWING GIRL、怒涛の1年を振り返る!!
昨年12月、BOYS END SWING GIRLは、若手バンドの登竜門的イベントである〈ROAD TO EX〉での優勝の勢いそのまま、今年5月には、エレファントカシマシ、サカナクション、あいみょんなど、そうそうたる顔ぶれが並んだ〈METROCK FESTIVAL〉への出演を果たし、大きな反響を呼んだ。さらに4月には渋谷Eggmanそして、8月には代官山UNITでそれぞれ、ワンマンライブを行い、こちらもバンドとしての成長が感じられる、堂々としたパフォーマンスを披露した。そんな彼らに、今年1年を振り返ってもらった―。
――今年は、4月に渋谷Eggmanでのワンマンライブがあって、そのあと5月にはメトロックの出演。さらに8月には代官山UNITでのワンマンもありました。そんな今年1年を振り返ってみてどうですか?
飯村昇平(以下飯村):Eggmanのワンマンまで何やってたっけ?レコーディングだっけ?
冨塚大地(以下冨塚):うん、『NEW AGE』作ってた。今年はね、バンドをやっていて、一番あっという間だったかもしれない。〈ROAD TO EX 2017〉に優勝して活動が大きくなってきたっていうのもあるけれど、去年は助走している感じがあって。チョロQをグイっと引っ張ってる感じというか。でも、今年1年っていうのはそれを離して、レールに乗ってスーッと走っていく感じだった。もちろんワンマンライブを頑張ったというのもあるけれど、どちらかというと、去年まで引いてきたものを今は開放している最中っていう感覚が強いな。
飯村:Eggmanまでは、気持ち的に今年の中では楽なほうだった。でも、それが終わって代官山UNITのライブが決まってからというのは地獄の日々という感じで。だから今年はより一層、一つ一つのライブを引き締めてやっていこうという気になっていったな。
白澤直人(以下白澤):今年が一番変わった感じがする。Eggmanぐらいまでライブの仕方とか、見せ方みたいなのが確立されてなかったんだよね。で、それがEggmanとかメトロックぐらいで、ライブってこうやったほうがお客さんが楽しんでくれるんじゃないかな、っていうのがだんだんと分かってきた感じがあった。だから、今年は一番変わった年でもあり、成長があった年でもあるな。
鍔本隼(以下鍔本):俺はあんまり覚えてないな(笑)。でも、印象的だったことは、冨塚が病気になって、3人でライブをやったことが一番かな。
冨塚:あれは一大事件だったね(笑)。『NEW AGE』の発売1週間ぐらい前に、具合が悪くなっちゃって。そのあとのリリースの日もいないっていう(笑)。
【HOW TO MAKE “BOYS END SWING GIRL”?】
作詞、作曲の大半を行う冨塚大地は、なによりも文学作品のバックボーンが大きい。その造詣は古今東西、幅広い分野に及ぶ。純粋で快活な語り口調に、きらきらと輝く目をした彼の姿は、小説の世界からそのまま飛び出てきた少年を思わせる。ここでは、“平成の文学少年”の創り出す音楽がどのように作られていくのか、そしてその音楽の真髄へと迫っていきたい―。
日常の中で感じることを、“私小説的”に曲にしていく―“平成の文学少年”冨塚大地
――まず、曲作りに関してなんですが、曲はどこで作るというのが多いというのはありますか?
冨塚:俺はどこで作るっていうのがなくて、どこでも作ってるなっていうのがあって。っていうのも一か所に同じところにいるっていうのがあんまりなくて。サッカーしたりだとか、あとは走ったり散歩したりもしてるし。でも、その中で常に曲について考えてるっていうのがあるから、曲を作るのはその時によって場所も時間もまちまちかな。
――曲の作り方に関して、どんな風に作るというのはありますか?
冨塚:最初にテーマを見つけるっていうのが一番最初で。自分の中では、どんなことを曲にするのかっていうのが一番大事だと思ってるから。例えば、人の背中を押したい曲を書くってなったときに、次に、誰に対して、どんな世代の人に向けてなのかというのを考える。それが決まったら、こんな季節に聞きたい、だとかこんな時間帯に聞きたい、だとかテーマをどんどん細かくして行くっていうのを最初にやってるかな。
――それってすごく小説的な作り方ですよね。
冨塚:確かに、そうかもしれない。で、テーマが決まった後は、必ず風景を思い浮かべる。夜の帰りの電車に聴いていたらいいなとかを考えて、それに浮かぶ言葉を当てはめていくっていう感じ。自分の場合、曲を作り始めるまでの期間が結構ないと、きっかけが生まれないから大変だな、っていうところはあるな。
――季節や風景と、音というのはすごく親密な関係がありますよね。
冨塚:最近、ユーミン(松任谷由実)の曲って絶対季語が入っているってことを知って。それがすごくいいなって思ってて。逆に、自分の作る曲って季語を入れている曲が全然ないんだよね。だから、次の作品は、季語を入れたものを作ってみたいなってのはある。俺、今まで桜とか一回も歌詞に使ったことないんだよね。そういうところにもう少し意識したら、もっとみんなが曲の風景をイメージしやすくなるのかな、とは思ったね。
――僕は、ボイエンの良さっていうのは、逆に時代性とか季節性のなさかなと思ってて。そこがいいところかなとも思ったんですけど、その辺はどう思いますか。
冨塚:それはうれしいね。確かに、今まではいつでも聴ける曲を作ろうと思ってて。そこからやっと、限定していっても曲として広がりが出るのかなって、最近思えるようになってきたってことなのかもしれない。
日本語の美しさが好きだから、それを伝えられたらいいー“日本語ロック”の後継者として
――続いてお聞きしたいのが、ボイエンの曲はほとんどが日本語の歌詞で構成されているというところで。それに関して、何か思い入れはありますか?
冨塚:俺、塾で国語の先生やっていたんだよね。大学の専攻も日本語日本文学のコースで。そこで、万葉集を勉強していたときに、その美しさみたいなのに気が付いたというか。道に石が落ちていて、その石に苔が生えていて、それを美しいと思ったことを、あなたに伝えたいと思ったから、あなたが好きになりました、みたいなことが書いてあるんだよね。それって、すごく詩的だなって思って。
(※「奥山の 岩に苔むし 畏(かしこ)けど 思ふ心を いかにかもせむ(奥山の巨岩に苔が生えていて、その厳粛なさまは畏れ多いけれども、それに触れてみたいという、この気持ちは一体どうしたらよいのだろうか)」ー万葉集, 巻7-1334, 作者未詳
※高貴な女性に恋焦がれた男の歌。苔むす岩を身分違いの高貴な女性に重ね、そのさまがいかにも神々しく、近寄りがたいかを詠っている。)
そういう美しさをずっとみてきたというのがあったから、自分も日本語でそういうのを伝えられたらいいなというのはあると思う。だから、詞のつながりを意識して書くことは多いかもしれない。
――ボイエンは、文法が破綻している部分が全くなくて、文章として完成されている印象があります。
冨塚:うん、そこはすごく意識している部分で、間違った日本語は絶対に使わないようにしてる。特に、「ら抜き言葉」だけは使わないようにしてる。あと、「てにをは」はしっかりしたいっていうのがあるね。でも、「が」と「の」は逆でもいいなって思ってて。それは古典文学の影響なんだけど。
――とすると曲は、日本語の音のリズムではなくて、正しい日本語の上で言葉の持つリズムを使って作っているという感じですか?
冨塚:そうだね。そっちのほうがいいなとは思う。でも、メロディーがあって、そこに音のリズムに合わせて言葉をいじくることも好き。例えば、3文字のメロディーのところに、4文字の言葉を入れるとなったときに、どうやったらうまくメロディーにはまるかとか。そっちの制約ってなんかゲーム感覚でやっていく感じに近いものがあるんだよね。昔からパズルとかすごく好きだったからさ。
――そういった曲作りの上で、ボイエンをCDやライブを聴いたとき感じたことが、歌詞を聴き取りやすいというところで。その辺の意識はありますか。
冨塚:言葉の頭ははっきりと歌うようにしてる。それこそ、文節に区切るっていうのがあるけれど、その区切りの最初ははっきり歌うのを心がけてるかな。あとは、実のところ結局、歌詞なんて聴いてもらえないだろうっていう諦念が実は根底にあって。その前提の中で、とりあえず歌詞を聞いてもらおうという努力をするように歌うっていうのがあるね。
【BOYS END SWING GIRLを形成したものとは?】
彼らの音楽人生に影響を与えた作品とは何だったのか。ここでは、そこからボイエンを形成しているものが何なのかを紐解いていきたい。今回は、メンバー全員に、自身のターニングポイントとなった作品を、音楽以外も含めて挙げてもらった。すると、四者四様、それぞれが全く別のバックグラウンドを持っていることがわかった。
そしてそこからは、違うジャンルの中でも、自分の好きなものをなんとか入れようとするせめぎあいのようなものが生まれている。プレイスタイルの根底にあるものが違う者が集って、一つの音楽をやろうとすること。それが、BOYS END SWING GIRLの音楽性の幅広さにつながっているのだ―。
冨塚大地(Gt./Vo.)
1. 重松清『白髪のニール』
前にリリースした『KEEP ON ROLLING』(2016)が、重松さんの『先生』っていう短編集の「白髪のニール」っていう小説の一節からとったものなんだけど。その話は、ニール・ヤングが好きなおじいさん先生が、生徒たちからギターを教えてもらうんだけど、その生徒たちが大人になってもう一度先生に会うんだよね。そこで、先生がお前らまだロックしてるか、ロールしてるかって言うんだよ。そこが自分の中ですごく響いて。
あと、自分は純文学よりも大衆小説が好きで、大衆で受け入れられるものが好きだから、そういう音楽を自分も作ろうっていうのがすごくあって。だから、そこに関しては重松さんの影響がすごく大きいかな。
2. シェル・シルヴァスタイン『ぼくを探しに』
家に絵本がたくさん置いてあって、それの影響がすごく大きくて。この絵本は一部が欠けた真ん丸の子がいて、そのかけらの形に合うものをどんどん探していくっていう。で、大きな子だとはまらないし、小さい子がいると外れちゃうっていう。そんな感じで転がりながら色々な人に出会っていく話なんだけど、道を進み続けるというところから、『KEEP ON ROLLING』のジャケットがインスパイアされたこともあった。
3. Mr.Children『HOME』
今まで生きてきて、すごく不幸を感じたことってまだなくて。ずっと人に恵まれて、幸せに生きてきた感じがあって。そこに対して昔、暗い気持ちを歌にしたほうがいいとか言われたことがあったんだよね。そんなとき『HOME』を思い出して。このアルバムは、桜井さんがいろんな経験をしたうえでの幸せだから、ちょっと違うんだけど、このアルバムを聴いて、今の自分の中から出るものをそのまま出していっていいんだって思えた。
4. LUNKHEAD『FORCE』
中学生のころ、TSUTAYAで友達と借りて。そのときLUNK HEADは俺とその友達2人しか知らなくて。それをみんなで聴かせようっていうのでみんなに聴け、聴けってやってた(笑)。そのなかでも、このアルバムは最高。ロックとポップが一番混ざり合っているアルバムで、これが一番好きかな。
白澤直人(Ba.)
浦沢直樹『20世紀少年』
自分には影響を受けたって言えるバンドがなくて。バンドじゃないんだけど、この作品の影響は少なからずあるかもしれない。作品の中に、The Rolling StonesとかThe Beatlesがたくさん登場するんだよね。この話って、ちょうど1970年代の話だから、古い音楽ってかっこいいんだなって、そこで認識させられたな。
飯村昇平(Dr.)
Foo Fighters『Wasting Light』
サウンドがすごくいいんだよね。ドラムの音に関して言うと、モダンになったなっていう印象がある。1枚目とかはデイヴが叩いてるっていうのもあるけど、いい意味でグランジを引きずってる感があって。だから、このアルバムが一番影響を受けるって言えるのかな。あとはドラマーのテイラー・ホーキンズの「ロック魂」みたいなプレーに憧れがあるな。あの、男気!って感じが好きなんだよね。
鍔本隼(Gt.)
おとぎ話『FAILYTALE』
大学の先輩が、部室でドレスコーズのライブのDVDを流していて。そのときのライブでギター弾いていたのが、おとぎ話の牛尾健太さんで。すごくいい音だなって思って。このアルバムは、レスポールのサウンドなんだけど、一番好きだね。