まぁが廊下を歩いているとちょこちょこと桃が寄ってきた。何も言わずに手を握られて当然のように指を絡める。まぁの手と比べて小さなその手は子供のようだ。
「楽しみだねぇ」
「おばあちゃんみたいだよ、桃」
「佐紀ちゃんに失礼ー」
「人の事言えないでしょ」
ほんとは佐紀ちゃんも桃も全然おばさんじゃないんだけどね。ネタだから許してよ。桃は膨れっ面をしながら私を見た。
「…ポニーテール」
空いてる方の手、正確には小指で指さされる。
「久しぶりに見た」
「そりゃ久しぶりにしたからね」
「なんか昔に戻ったみたい」
「若返った?」
「そーいうことじゃなくて」
「なーんだ」
「でも、懐かしいね」
ちょっと短すぎるポニーテールを触って桃が笑う。目を細める笑い方は昔から変わらない。桃は童顔だから余計に変わってなく見えた。
「すーちゃん」
「…その呼び方、久しぶりじゃん」
「なんか呼びたくなったの」
「じゃあ嗣さん」
「まって、それはダメ」
食い気味に返されてごめんごめんと笑う。ももちでしょ、分かってるって。もう何年一緒にいると思ってるの。
「桃はね」
「ん?」
「すーちゃんの頃から茉麻が好き」
不意に桃が呟いた。どういう意味か分からなくてぽかんとしてしまう。純粋な目で見上げられるが何と言えばいいのか分からない。桃は仕方ないと言うふうに笑った。
「だーかーらぁー」
「うん」
「桃が茉麻をすーちゃんって呼んでた頃からずっと茉麻の事が好きだよって事」
「あぁ…うん、知ってる」
わかってるよ、そんくらい。だってまぁたちはだいぶ前から付き合ってるんだから。桃はつまんないのーと呟く。
「たまに茉麻も好きって言ってよー」
「えー?」
「いつも桃が言ってばっかじゃん。せっかく今もうまい感じで言ったのにさ」
「ん、ごめん」
「…ほんとに桃のこと、好きなの?」
ひらりと絡んでいた手を解いて。桃は少し低いトーンで言った。廊下には2人しかいない。まぁの深く吸った息の音だけが沈黙に響く。
「桃」
優しく名前を呼ぶと、ぐっと腰に手を回して抱き寄せそのままキスをした。好きって言うより伝わるはずだから苦しくなるまで口づけて。
「はぁ…」
「く、るしっ…」
整った桃の前髪をゆっくりと撫でた。
「まあーさ」
「…もうすぐ時間だよ、桃」
「んーいいとこだったのにー」
腰に回していた手を緩めてすっと桃から離れる。じゃれ終わった猫のように桃は少し寂しそうにまぁを見つめるからまた手を握った。
「行こっか」
「うん、あ、差し入れのクッキー食べよー」
「もちもちももち」
「うるさーい」
「いいよ、可愛いから」
「当たり前ですー」
ふにゃりと桃が笑う。コロコロと変わる表情にまぁもにやける。2人繋がったまま、また静かな廊下を歩き出した。
end.
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