うーたん... チュ.. ~自身のミスで実家が全焼~ 彼女は火事になることを事前に知っていた?

※このブログは

筆者の身の廻りで起こった事実を元に“小説”として再構築したものです。

登場する人物の氏名等は全て架空のものです。

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第18話  未完成のまま・・

【あの日から俺は… 未完成のままなんだ・・ きっと】









入学した私立の男子高校は本当にむさくるしい場所だった。


男だけがここまで大勢集まる世界って、、何だか異様な雰囲気に感じた。






クラスの野球部の奴と何気なく話をしたら、俺と同じ“中学軟式野球”出身者で


そいつは≪全国大会準優勝の四番でキャプテン≫という男だった。





俺の中学は地方大会1回戦コールド負け・・

全国参加1万校を超える中学野球の頂点とは、一体どんなレベルなのか??



…想像する事すら出来なかった。 気持ちが完全に引いた・・






他の奴らにも、中学校単位とは違う“硬式シニアリーグ”で≪全国大会ベスト8≫

高校野球で全国優勝経験ある強豪校の付属、大阪の≪PL学園≫中学や

高知の≪明徳義塾≫中学出身者などなど



県内の有名選手はおろか、全国から有望選手が集まっていた。







神奈川の高校野球レベルは全国屈指であり、200を超える参加校数も最多

全国優勝をも狙う強豪校がひしめき合っている、まさに群雄割拠の時代でもあった。



結果として春夏計5回チャンスのある甲子園へは、全て別の高校が出場した時代・・

それほどまでに甲子園とは、実力があっても必ず行ける保障などない厳しい場所・・




高校をあげて≪本気で神奈川から甲子園を狙いに行く≫とは、こういう事だった。






『中学時代にエースで四番でした』と言ったとして 

「それがどうかしましたか?」と言い返されてしまうレベルだ。






野球推薦ではない一般入部希望者は、入学前の春休みに

<セレクション>という名の“入団テスト”があったらしい。


実力も無い人間が、ただ“入りたい”だけでは入部出来ないのだ。











もう野球の事など、完全に頭の中にはない俺だったが

何か運動部には入りたいと思っていた。






最初、神奈川で一番施設が整っているというある部へ行き見学したが

全く走りもしないという練習に絶句してやめた。







次に見学したテニス部へ“大学行った時モテちゃおう”的理由で正式入部した。





始めは球拾いとか走り込みだけだったけれど

厳しい野球部出身のプライドと“実際に身についていた”基礎体力で


いつも新入部員の先頭に立つ<テニス部期待の星>になって行った。










でも…



そのテニスコートは一段低い位置にあったが、野球グランドに隣接しており

バットの金属音やスパイクが土を蹴る音、野球部員の掛け声などがよく聞こえた。





それが日に日に辛いものになっていった…








練習をしながら、毎日悶々と考えるようになった。



【何で俺は今 野球部の“横”で、テニスをしているんだろう・・】










そしてそんな日が2週間続いたある日


忘れかけていた、あの言葉を思い出した・・

































【〔 甲子園めざしてススメ! 宇太! 〕】
 
























小石川先生の“あの”言葉だった。
















あれから小石川先生は、小学校教諭を辞め地元九州へ帰り


養護学校の校長先生をしていると聞いていた。




先生らしい、“信念のある”人生の選択だった。












<<俺は今、一体何をやっているんだろう>>




【甲子園へ行く事が、人生初めての夢だったんじゃないのか??】














この高校の野球部なら、甲子園へ行けるかもしれない。




でもレギュラーはおろか

ベンチに入る事すら、100%どころか300%ありえない。

どんなバカでも解る現実だ。










それでも、甲子園どころか

野球自体をしていない今の自分が


どうしても許せなかった。












もう5月も半ば・・野球部に入部させてもらうのは無理かもしれない。


仮に入部出来ても

3年間、球拾いの毎日かもしれない。バットすら握れないかもしれない。









でも…












【長い人生で、たった一度しかないこの時期・・やるしかないんだ!!】


俺は一大決心の上、テニス部を辞め野球部の門を叩くことにした。





















その日の放課後、俺は職員室へ向かった。



緊張して、緊張し過ぎて心臓が飛び出しそうになっている。







奥へ入って行くと監督の姿が見えた。

神奈川の野球人なら誰しもが知っている有名監督だ。



自分から見たら、雲の上の上にいる人。

神様みたいな人だ。










近づいて行った・・ 怖かった・・













ここが野球のピラミッドの頂点だとしたら・・



━自分の位置が一体、どこにあるのかもわからない━














席の目の前に立った。



あの有名監督がちらりとこっちを見た。











『や、野球部に入部させてくださいっっ!!』






声は確実に震えていたが



まだムーミンであり、15歳というあどけなかったあの時期を考えると



≪これが人生最大の “勇気” だったのかもしれない≫














監督が


俺のか細い全身をなめるように見て、言った。










「ポジションはどこで何番だ?」









『に、二番・センターです!』  【二軍の・・】









「おー、足が速いのか! 50メートル何秒だ?遠投何メートルだ??」





まさか監督も、

地方大会1回戦コールド負けの中学軟式野球部で

さらにレギュラーでもない人間が申し込みに来ているとは思わなかっただろう。


俺は場違いなのを痛感していく・・








『な、7秒5です!』


後に6秒8ぐらいにはなったが、ヘタすると女子より遅い数字を俺は言った。



遠投の質問には、答えなかった。










監督は、すごくびっくりした顔で


「おっそいなー!!それで二番やってたのか?! 大丈夫か??・・」


と絶句していた。







それから少し間が空いたあと








「まー、がんばれや!!」


と、肩をポンポンって叩いてくれた。 手がでかくて分厚い。







あっさり入部が決まったのだ。








急に現実になり、正直恐ろしくなった。


大丈夫なのか?! 俺?!!












次にコーチがやって来た。


野球部顧問の中で唯一、授業で接点のあった優しい感じの人だ。




「甲斐ぃー! がんばれよォー!!」




また肩をポンポンって叩いて行った。 やはり手がでかい。



その伝統あるユニフォームの後姿は

授業時の洋服姿とは全然違って、尻がとても大きくガッチリしたものだった。


それだけでレベルの違いを感じさせる、迫力あるものだった。




怖い・・












続いて野球部長が来た。



テレビ神奈川の野球中継で解説をしている、神奈川高校野球界のドンだ。







「何だいまごろぉーっっ!!」



恰幅がよくて怖い・・ヤクザみたいだ・・








「ダメダメ!!ウチは春休みセレクションもやってんだよ!!」







【えっ?】



入部出来ないのか??

さっき監督もコーチも“がんばれ”って言ってくれたよな・・










『お願いしますっっ!!』




「ダメダメ! 他の部員に示しがつかんだろう!!」









しばらく俺の懇願が続いた・・ 聞き入れてもらえない。








最後に部長は「しつこい」と、あきれてその場を去って行った。












監督が悲しい顔をして俺に近づき、こう言った。



「そういうことだから・・ ごめんな・・・」



絶望の淵に立たされた。 目の前が真っ暗になった。












その日以降も、俺は何度も何度も職員室へお願いに行っていた。












ある社会科の授業後


一番近い存在のコーチが、俺の肩を抱きながら諭した。



「甲斐の気持ちもわかるけど・・ あきらめてくれ・・」









その日から、いつもクラスで明るくはしゃいでいた俺は変わった。


全く覇気のない死んだ目をして学校へ行っていた。 授業も集中出来ない。













毎日後悔ばかりしていた・・


家では独り、泣いて泣いて泣き続けた・・


二度とやってはこない、この高校生という時間・・














そしてこの絶望の状態で初めて気付いたのだった。












俺は“甲子園”が大きな夢だったけれど



≪高校野球そのものが、大好きだったんだ≫ と。












俺は小学生の頃から、いつも周りには沢山友達がいたけど

同じ仲間とベタベタとつるむのが好きではなかった。





でも、あの中学最後の試合で感じた気持ち・・





空しい背番号の件や、最後まで告げられなかった代打の件もあったが





試合終了の瞬間


【もうこの仲間達と “真剣に” 野球へ取り組む事はないんだ・・】



そう思ったら突然、涙が出てきたのだった。







野球部の連中には、どうしようもない不良達もいたけど


俺の下手糞なプレーを弄って馬鹿にする奴もいたけど









お互い真剣に、野球と向き合っている時には



≪いつも一つになっていた≫











あの試合終了の瞬間・・


俺だけではなく、不良部員達までもが皆 目を真っ赤にしていたのだ。







【そういう時間を俺は、高校野球という“舞台”でやりたかったんだ】
















俺は6月のある夜、親に頼み込んだのだった。







『公立高校へ編入させてくれ!!』






真剣に編入試験日程を調べ、今後のプランも綿密に立てた上で頼んだ。









私立の高い入学金や授業料を払っている両親は怒った。


当たり前だ。




認めてもらえなかった。

















7月━


新聞を見たら神奈川県予選の全校紹介が載っていて


各校のベンチ入りメンバーの中へ、中学の野球部仲間のほとんどが

1年生から名を連ねていた。 悔しかった。









8月━


小6の夏以来、部活でずっと行けなかった甲子園のスタンドに 俺はいた。



その大会では1年生が躍動していた・・ また涙がこぼれた。















10月━



秋になっても、運動も何もしていない自分が嫌で


クラスの仲の良い奴が所属していたハンドボール部へ入った。




何も知らずに入部したが、その部は関東大会4位の実力があり

しのぎを削る神奈川のライバル校は全国大会3連覇中という高レベルのものだった。





皮肉にも

高校入学当初の身長150センチ台から、卒業時には175センチを超える程急速に

体格も運動能力も上がって行った俺は、1年生でもすぐに試合へ使ってもらえた。




ある公立校との試合の時、カウンターからの速攻で俺が得点を決めた。


その時、「さすが○高だぜ・・」と相手の声が聞こえた。



きっと純粋な個人の技術や経験では相手の方が上なのに


≪これが名前負け、名前勝ちなんだ≫という事を、初めて逆の立場で知った。










結局ハンドボールも長くは続かなかった。


俺には野球以外、情熱を注げるものなんて存在しなかった。












2年生になり、俺はかつての中学野球部で高校野球をしていない連中を集め

草野球チームを作った。



俺が監督とキャプテンと三番打者を務めたそのチームは、連戦連勝だった。


その頃は肩も強くなっていたし、打球も面白いほど飛ぶ様になっていた。








けど自分の中に空く大きな穴が完全に埋まる事はなかった。

































その後野球部は、苦しい予選を勝ち抜き悲願の甲子園出場を決めた。






久しぶりに決めた甲子園に高校全体がお祭り騒ぎとなり

寄付金もかなりの額が集まるほど、OBを含めて大変な盛り上がり様だった。





体育館で行われた野球部壮行会では、バンカラの応援団が声を張り上げている…



誇らしげに並ぶ野球部員達を・・俺は他人の様な冷めた目で眺めていた。













































ある日の夕暮れ、俺は高校の野球グランドにいた。



いつも活気あふれるグランドには、誰一人いない。






今頃野球部の連中は甲子園か・・

































一礼してマウンドに上った・・ 手にグラブなどはない。

































振り返って外野を見渡す・・ 薄暗くてとても静かだ。

































センターの定位置を見つめる・・ ユニフォームを着た自分を思い浮かべた。

































キャッチャー方向へ向き直し、ピッチャーズプレートに足をかけてみる・・

































目をつぶり、深呼吸をして “甲子園の青空” を見上げた。

































俺は振りかぶり、小声で試合開始のサイレンを口ずさんだ… 。

































次にヘルメットを被った振りをして、バッターボックスへ向かう。

































打席に立ち、架空のバットを構え



いつもの様に全神経を、ピッチャー方向へ集中させる・・

































その時だった━

































【(ワーッッ!!・・)】

































甲子園の満員スタンドからの声援が、かすかに聞こえた

































気がした

































【(甲斐! 甲斐!!)】













































あの夕暮れの・・






<あの日>から俺は…

































未完成のままなんだ・・ きっと













































━第18話 終━















つかめない 駆けてく光の中 広がる世界まだ眩しすぎて


終われない 空の果てまで


だって僕はずっと 未完成のまま





止まれない あふれる光の中 つないだ勇気ただ握りしめて


とめどなく はじまる瞬間(とき)へ


だって僕はまだ 未完成のまま・・






(秦 基博 「Halation」 より、“僕ら”を“僕”にして部分抜粋)
















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