オペラ学研究会第58回例会

 

日時:2023年6月10日(土)20時 〜 (Zoom形式)
タイトル;自筆譜の修正跡に見る《シモンボッカネグラ》(1881)の歌唱の演出について
発表者:林いのり(お茶の水女子大学大学院 博士後期課程)

概要:
 19世紀を通して創作を続けたG.ヴェルディが、初稿から24年を経て改訂稿を制作した《シモン・ボッカネグラ》(1857, 1881)は、台本詩行・プロットの展開・楽曲形式など様々な観点から研究されてきた。その中で、歌唱旋律の変化については、最晩年の作品(改訂版の《ドン・カルロ》、《オテッロ》、《ファルスタッフ》)に通じる、「散文調prosaic」への志向が指摘されている。
 本作の自筆譜は、3層から構成される。即ち、(1) 57年初演の初稿制作時に記譜され、その内容が改訂稿にも残された部分 (2)初稿の記譜が消され、同じ五線紙上に新しい内容が書かれた部分 (3)曲の差し替えなど大幅な変更のため、新しい五線紙に差し替えられた箇所、である。
 本発表は、この自筆譜の調査結果から、(3)の中で「改訂稿の旋律を、更に一部修正した跡が認められる箇所」に焦点を当てる。これらの微修正は、これまで報告されてこなかったが、抑揚・音域・音量・タイミング・和声進行に関わる修正であり、「歌われる台詞」としての歌詞が「どう歌われるか」を変化させている。本発表では、修正箇所に対する『舞台演出冊子(disposizione scenica)』の記述や出版譜に書かれた演奏指示を照合し、修正結果との関連性を探る。また、初稿と改訂稿が初演された際の批評の分析結果から、歌手のパフォーマンス(歌唱・演技)の「論じられ方」の変化にも言及する。

発表者プロフィール:
林いのり(https://researchmap.jp/hayasiinori)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、お茶の水女子大学大学院修了(学術)、現在同大学院博士後期課程在籍中。研究対象はジュゼッペ・ヴェルディのオペラ作品。令和2-3年度日本学術振興会特別研究員(DC2)。