ピロリン酸の除去が植物の発芽成長に不可欠であることを証明
発表者
概要
私たちヒトでも植物でも、生命が活動するときには、その代謝の副産物として、ピロリン酸、という、化合物ができ、細胞質に蓄積します。
☆ ピロリン酸の、 ピロは、 ギリシャ語で、 火 、 などを意味し、 ピロリン酸は、 火燐酸、 といった物 。
☆ ピロリン酸は、 リン酸が、 2つ、 が、 つながった、 化合物で、 生物が、 色々な代謝をする際に、どうしても、出てきてしまう物質です。 有名なリン酸化合物の、 ATP と同じように、 それを分解すれば、 エネルギーが取り出せる物質ですが、 ピロリン酸は、 ATPと異なり、 毒性があり、 生物としては、 さっさと分解した方が良い物質です。
これを分解する、 タンパク質から成る、 酵素 コウソ の役目が、今回、植物を使った研究から、初めて、明らかになりました。
植物の種子は、 水を吸うと同時に、休眠から目覚め、 細胞の代謝を一気に活発化させます。
その旺盛な代謝らの結果にて、 ピロリン酸が蓄積します。
これに対して、植物は、ピロリン酸を分解する、 酵素 コウソ を使い、 その分解で得た、 エネルギー、を利用して、 細胞の体積の大半を占める、 液胞の中を酸性化する ≒ 電子強盗を働く性質のものとする 、 と、 考えられていました。
では、 この酵素 コウソ 、の意義は、 ピロリン酸を分解することにあるのでしょうか、それとも、 液胞を酸性化することにあるのでしょうか。 これまで、重要な植物ホルモンである、 オーキシン(注2)を組織の中で正確に輸送するためには、ピロリン酸への分解酵素による液胞の酸性化が重要とされてきました。
しかし、 それにしては、 変だ、 という反論も出ていました。
ピロリン酸への分解酵素は、 植物のみならず、 大腸菌からヒトまでの生物が持つ、重要な酵素ですが、これの働きが失われると生存できないとされてきた為、 解析のめどが立っていませんでした。
今回に、東京大学の塚谷裕一教授、東京学芸大学の、 Ferjani Ali助教、立教大学の堀口吾朗准教授、および、名古屋大学の前島正義教授らの研究グループは、 ピロリン酸への分解酵素の機能が失われた変異体株 ( fugu5-1 変異体 ) 、 が生活能力を持つこと、また、 ショ糖 ≒ 砂糖 、 を添加すると、 表現型が回復することに着目し、この問題に取り組みました。
その結果にて、 植物が、 種から芽生えて、 成長する段階では、 液胞の酸性化よりも、 ピロリン酸への除去のそのものこそが、 重要であることを明らかにしました。
これは、 動植物を通して、 生物における、 ピロリン酸への分解酵素の役割を解明した、 初めての成果であり、 国際誌 Plant Cell 誌に、 オンライン版の、 8月29日付で掲載され、 また、 掲載号中の注目すべき論文として紹介されています。
研究の成果

(カラー版)図1:野生型(左上)、fugu5-1 変異体(右上)、パン酵母のピロリン酸分解酵素を導入したfugu5-1 変異株(下段左右)。播種後一週間の芽生えの写真。正常な子葉は"うちわ型"(左上)の丸い形なのに対して、fugu5-1 変異体ではやや細長い形になる(右上)。酵母のピロリン酸分解酵素を導入した株では、この子葉の形状は回復しむしろ大きくなった(下段左右)。スケール:2 mm。

(シロクロ版)図1:野生型(左上)、fugu5-1 変異体(右上)、パン酵母のピロリン酸分解酵素を導入したfugu5-1 変異株(下段左右)。播種後一週間の芽生えの写真。正常な子葉は"うちわ型"(左上)の丸い形なのに対して、fugu5-1 変異体ではやや細長い形になる(右上)。酵母のピロリン酸分解酵素を導入した株では、この子葉の形状は回復しむしろ大きくなった(下段左右)。スケール:2 mm。
種子の中には、油( 脂質 )や、 タンパク質、などの貯蔵物質があります。 休眠から目覚めた種子の中で、植物は、貯蔵された脂質などから、エネルギーの元となるショ糖を作って、発芽後の発育を支えます。 一方、胚の代謝が活発になると、核酸、や、タンパク質などの高分子、あるいは、 ショ糖への生合成の過程で、その副産物として、ピロリン酸が蓄積します。 ピロリン酸濃度が高くなると、これらの代謝が停止してしまうので、植物は、細胞の生理機能を保持するため、ピロリン酸の量を減らす必要があります。 しかし、そのピロリン酸を分解する酵素、ピロリン酸分解酵素の役割については、この酵素に、ピロリン酸を分解する働きと、液胞を酸性化する働きとの、 2つの機能らがあるために、諸説があり、 よく分かっていませんでした。
今回に、塚谷教授らのグループは、実験材料に、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、まず、ピロリン酸、への分解酵素の機能が欠損した変異株 ( fugu5-1 ) について、詳細に調べました。 その結果にて、 fugu5-1 変異体の表現型は、 培地に、 ショ糖を添加することで回復することが、判明しました。
細胞の中身を分析した結果にては、 野生型に比べて、 fugu5-1 変異体では、 ピロリン酸を過剰に蓄積しており、 貯蔵脂質に由来する、 ショ糖への生合成が阻害されていました。
これは、 ピロリン酸の分解酵素がもつ、2つの機能らのうちの、どちらが損なわれたため、なのでしょうか?
研究チームは、そこで、 fugu5 変異体に、パン酵母のピロリン酸分解酵素(注3)を導入することにしました。
パン酵母のピロリン酸分解酵素は、植物の場合と違って、ピロリン酸分解のみの機能を持ち、液胞内の酸性化を行わない性質があります。
しかし、 これをはたらかせた、 fugu5 変異体は、完全に、表現型を回復しました(図1)。
この事は、発芽後の成長において、ピロリン酸への除去機能が重要である事を示しています。
この発見は、 植物のみならず、 他の生物における、 ピロリン酸への分解酵素の生理機能を解明する、突破口となりました。
応用的には、 今回の遺伝子導入において、 ピロリン酸への分解による、芽生えの成長への促進性が認められたことから、成長の促進への効果による、 バイオマスの増大などへの寄与が期待されます。
発表雑誌
国際誌 Plant Cell誌 8月29日付けオンライン版に掲載
(doi: 10.1105/tpc.111.085415)
論文タイトル
Keep an Eye on PPi: The Vacuolar-Type H+-Pyrophosphatase Regulates Postgerminative Development in Arabidopsis
「液胞型プロトンピロホスプァターゼはシロイヌナズナの発芽後の初期生育を制御する」
著者
Ali Ferjani, Shoji Segami, Gorou Horiguchi, Yukari Muto, Masayoshi Maeshima, and Hirokazu Tsukaya
研究グループ
本研究は、塚谷裕一(東京大学大学院理学系研究科 教授)、Ferjani Ali(東京学芸大学生命科学分野 助教)、堀口吾朗(立教大学理学部生命理学科 准教授)および前島正義(名古屋大学大学院生命農学研究科 教授)、瀬上紹嗣(名古屋大学大学院生命農学研究科 研究員)、武藤由香里(元名古屋大学大学院生命農学研究科修士課程2年)の共同研究として実施されました。
研究サポート
科学研究費補助金の助成により研究が進められました。