ヒルに対して、どのようなイメージを持っているだろう。沼地を歩いていると、知らぬ間に足にくっついて血を吸い、振り払っても傷口からの出血がなかなか止まらない、など嫌悪感を抱く人がほとんどだろう。しかし、そのヒルが人間のピンチを救うこともあるという話題をお届けしよう。なんと、ちぎれてしまった耳を、ヒルの力を借りることで完全に元通りに縫合できたというのだ。

 今月17日、米・マサチューセッツ内科外科学会が発行する医学誌「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」(NEJM)が報じたところによると、今回の治療に成功したのは、ロード・アイランド病院の形成外科医、スティーヴン・サリバン氏だ。


■ピットブルに耳を噛みちぎられた少女

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画像は「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」より

 昨年の7月、医師のもとに「左耳をピットブルに噛みちぎられてしまった」という19歳の女性が搬送されてきたという。ピットブルとは、しばしば闘犬として飼育され、その獰猛な一面から「危険犬種」と見なす国もある犬種だ。

 治療に当たったサリバン医師は、「犬による食いちぎりの場合、当然きれいな切断面とはなりません。一般的に再縫合の可能性は非常に低いものとなってしまう」「状態はとても不確かだった」としながらも手術に挑み、0.3mmにも満たない動脈分岐部を何とか接合することに成功する。

 しかし問題はそこからだった。ちぎれた静脈をつなぎ合わせることができなかったため、流れてきた血液の行き場がなくなってしまったのだ。血管は詰まったパイプと同じ状態で、このままでは「うっ血」してしまう。さらに、組織に新鮮な血液が行き届くこともなくなってしまったのだ。

ヒルが助けてくれた!

 そこでサリバン医師は、自然界の力を借りることにする。なんと彼は、女性の耳に1匹のヒルを付着させ、溜まった血液を排出する役割を担わせることを決断。こうすることで、患者の体が自ら静脈を再生させるまでの間、患部には常に新鮮な血液が行き届くようになると考えたのだ。「私はうまくいくと思っていました。ただ、これは一般に行われる処置ではありません。確かにFDA(米国食品医薬品局)は、あらゆる切断事故の治療にヒルを用いることを承認していますが、未だに世界で50例にも満たないのではないでしょうか」とサリバン医師は語る。

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画像は「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」より

 17日後、女性の耳からヒルが取り除かれた。治療の結果、耳は完全に接合し、以前と変わらない姿を取り戻した。また、聴覚にも何の問題も起きなかったという。サリバン医師は今回のケースについて、「自然の力を用いて治療を成功させたという意味において、理想的な事例となるでしょう」としている。


 ただし注意しなければならないのは、今回の治療では無菌化した医療用ヒルが用いられたという点だ。サリバン医師は、決してどこかの沼地で捕まえてきたヒルを使ったわけではないので、素人はうかつに「ヒル治療」を真似しないほうがいいだろう。また、今回のような処置を受けるためには、体に対する十分な血液供給が必要となる上、すでに組織が死んでしまっていたり、生かせる血管が無い場合は、そもそもヒルが働くことすらできない。

 17日間、耳にヒルを付けたままにしておく今回の治療。有効なものだと分かっていてもなかなか辛いものがありそうだ。耳を永遠に失ってしまうことを思えば、こんな治療にも耐えられる……だろうか。
(モンペ・アザブジュバーン)