【ヘルドクター・クラレの毒薬の手帳 第1回、青酸カリ】 

1201dokuyaku_main.jpg■青酸カリの歴史

  青酸カリ 、 というのは俗称で、化学の世界では、   「  シアン化  カリウム  」  (  KCN  )、  と表記されます。

 青酸カリ、  という字面から、 ドラマなどでは、   青っぽい粉で表現される事もあるが、実際は、 白い粉で、 舐めると、   アルミホイル、 と、 甘味のない、杏仁豆腐を口にいれたような味  、  がする。

    この青酸という言葉は、 元は、  顔料として、   15世紀頃から使われていた、プルシアンブルー、に由来している。

 組成式を見ると、  鉄  Fe 、 を含む、                 FeK      [    Fe   (   CN  ) 6   ]     や、                 Fe   (    NH 4 )    [    Fe   (   CN  )  6    ] 。

     一昔前は、  腐らせた牛の血を、  錆びた鉄鍋で、  灰と一緒に混ぜ、  時々に、   鍋を叩きながら煮詰める、   という方法で作られていました。

   生成に必要な、 鉄分は、 錆びた鉄鍋を叩く事で、  酸化鉄が中に入り込み、 反応していった。

      水酸化 ナトリウム 、などの、    電子を与える性質の強い、   強塩基 、と、   プルシアンブルーを混合すると、  水酸化鉄 ( III  )  、 と、   シアン化合物イオンが得られ、そこから蒸留などを経て、 シアン酸こと、 青酸 、 が作られるのです。

 プルシアンブルーは、  セシウム・イオンを吸着する性質を持っており、 福島第一原発が爆発して、 放射性セシウムが、日本中にばらまかれた時に、話題になりました

 この化合物な、 プルシアンブルーの、   炭素  C  、    と、  窒素  N    、   とから成る、    CN     、  という部分こそ、 青酸カリの、  CNな、  部分なわけです。

   青酸の状態では、  反応性が高すぎて、 不安定なために、  カリウム塩や、 ナトリウム塩にしたものが、 青酸カリウム  (  シアン化カリウム  )  、     青酸ソーダ    (   シアン化  ナトリウム   )  、  と、 なります。

     青酸ガスは、  非常に致死性の高い猛毒ですが、 反応性の高いガスでもあるので、しばらくすると、   空気中のアンモニアや、その他有機物なんかと反応して、 毒性を失ってしまいます

 クリスティ女史のミステリーの中では、 ラジオの中に封印された青酸ガスが、音楽のハイライトで、共振して割れ、 青酸ガスが、部屋に充満して死ぬ、 という、 トリックが出てきます。

   人を殺す位の分量は、    小さなアンプルに、   1気圧で封印できる程度の、 少量では、 無理で、   青酸ガスの致死濃度である、  3百  ppm        (     部屋の空気に、  0.03   %   、を混合しなくてはいけない   )  、   に達するためには、  仮に、   6畳位の部屋を想定しても、    十数グラムの液化ガスを封入すべき事になり、  ラジオの中に搭載するには、相当な技術なり、金が、かかります。

   とんでもない圧力がかかったアンプルが、ラジオの音楽の共鳴で割れ、  それ以外では、割れない様にしなければいけないんで、 現代のテクノロジーをもってしても厳しいと言わざるを得ません。

  シアン化化合物は、 非常に分解しやすく、  空気中の、 二酸化炭素を吸収して反応し、  無毒な炭酸カリウムへと、どんどん変わっていきます。             故に、  実験用試薬でも、結構な生もの扱いで、  開封後は、  早めに使うことが、 推奨されています

 毒殺犯が、  紙に包んだ青酸カリを隠し持って、サラサラと入れている場面なんかが、 ミステリーに登場しますが、紙包みなんてして毒殺の機会を伺い、ずっと携帯してたら、気が付けば、 無害、なんて事もあり得るわけです。

 加えて、  致死量も問題です。

 猛毒かと思われていますが、その致死量            (   LD 50   ) は、   およそ、   5 mg  /  Kg  、   とされています。

    つまり、 体重が、 60 Kg 、の成人男性なら、       5 mg     ✖     60 Kg   、で、    3百  mg  、   となります。        3百  mg   、  といえば、   指先に、 こんもりある位の分量です。

 しかも、      この数字は、     LD 50                     (   半数致死量   ) 、      というもので、                    10人中の、   5人は死ぬかも……、   という、  数値であり、  つまり、  死亡率は、  50  %  。   

    では、 確殺には、  倍量でいいのか、 というと、  さにあらず、 この半致死量な値は、 ラットでの数値であり、人に対して、 確実ともいえないわけです。 そうなってくると、  さらに、十倍は盛らないと、確殺とはいきません。

 その分量は、 なんと、  3 g (笑)。

 1円玉が、 3枚分です。   小さじ一杯に満載分が、あり、 しかも、 一切の分解をされていない、 新鮮な状態、 という、 但し書き付きです。

 そんな分量をいれれば、  飲み物でも、 一口で、  怪しい味になるし、 それだけのものを飲ませ得るなら、 別の猛毒が、選択肢として出てくる。

■未解決帝銀事件と青酸

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画像は、「毎日新聞/昭和毎日」より引用。帝銀事件を報じた記事

   ☆   帝銀事件で使われた毒  ;

 昭和23年に、 東京都は、  豊島区の帝国銀行に、  赤痢感染者が来店したので、予防薬を飲んでくれと、 役所から来たと言う男の指示のもとで、  銀行員たちが、  薬を服用。        薬として配られたのは、  非常に飲みにくい、  1液と、  少し苦い、    2液。        この、2つの液体らが合わさると、   初めて、 毒性を成す。

 数分後に、 飲んだ職員は、 すべてが死に、       犯人は、 悠々と、 金をもって逃げた……という、 戦後の未解決事件の1つです。

 ここで使われた、 と、 言われているのが、             シアノ・ヒドリン 、 の、  1つな、   アセトン・シアノ・ヒドリン 、    という物質。

     2液には、  おそらく、   重曹のような、 弱塩基が含まれていたのではないかといわれています。

 粉末の青酸カリに比べて、   液体で、   保存性が高く、  胃の中で、  即毒性を発揮する     

  (   胃酸と反応して、  青酸ガスが出る   )    

   青酸カリより、  安定性が高く、  複数人に飲ませても、  2液目を飲ませて初めて、    胃の中で、  青酸を発生させて殺すことができる。

 この方法を用いれば、   複数人に飲ませても、   最後の人にのませ終わるまでに、 最初に飲ませた人が倒れ出して、 怪しまれる事を避けられる……、   というものです。

 この物質も凄まじいマズさで、    薬と偽って、 飲まされたからこそ、 服用に至ったわけで、現代では、まったく通じない、 といえます。

 青酸系毒物の所見は、  極めて分かりやすい状況証拠を残し、 そこから、 毒物の鑑定が行われ、   犯人の絞り込みがなされる、 法医学と捜査科学が発達した現代では、   毒を使った犯罪というのは、非常に足の付きやすい犯罪です。