③他人家族・もう誰も知らないこと(小説) | 夢をおいかけて☆☆☆真夜中の飛鳥

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夢をおいかけて、気ままに小説も書いてます。
2022年4月に初めて本を出版しました。

①②のつづきです。

 

前回は、『寝ていた義父さんの呼吸が止まっていた』

ところで終わりました。

もうすぐ結婚式というのになんて事なのでしようね

さてどうなったのでしょうか

 

前回②最後をもう一度

 風が秋を告げるように、気持ちよく頰をなぞっていく。

もうすぐ結婚式、みんながそう思っていた。  

 朝、ウメが起きた時、少し小雨が降っていた。 

いつもならウメより先に起きて、朝ご飯を作ってくれる徳造が、起きてこない。

 「お父さん、朝だよ」 と言っても返事がない。 

「お父さん、お父さん」 いくらゆすっても起きない徳造に、不安を感じたウメは、呼吸をしているか確かめた。 ・・・していなかった。

 

 

 

 どれだけ経ったのだろうか、ウメは徳造の枕元に、黙って座り込んでいた。

しばらくしてウメは我に返り、救急車を呼び、智也にも連絡をした。  

警察が、やって来た。現場検証は進み、ウメは事情聴取をされた。

ウメには、何が起きているのか、すぐにはのみ込めなかった。 

ウメは『お父さん、みんな何をしているのだろうね。ドラマみたいだよ』と心の中で徳造に問いかけていた。  

 徳造は、普段から健康で病院へ行ったことがなかった。

ウメはというと、病弱で心臓も悪いし、糖尿病、高脂血症と病気のデパート状態。

誰が考えても、ウメが先のはずだったのに、徳造の心臓の方が先に止まってしまい、ウメは何もかも徳造の厄介になっていたので、どうしたらいいのか、途方に暮れてしまった。  

 徳造の葬儀は、智也が葬儀屋と取り決め、無事に終わった。ウメが嫁にと思っていた路子も葬儀に来てくれた。  

ウメは、不安を隠しきれずに、路子にしばらく一緒にいてくれるように頼みこんだら、路子は状況によっては泊るつもりでいたので、すぐさま承諾した。  路子は、三年前に好きな人と駆け落ちし、三歳の子供がいた。

 ウメの妹は、娘が駆け落ちしたことを隠していたので、徳造の葬儀で会うまで、路子が結婚していることをウメは知らなかった。  路子は、ウメに『一度家に帰り、子供を夫に預けてすぐに戻ってくる』と言い残し帰って行った。 

 路子が戻って来るまでに、智也は、葬儀後の全ての手続きを済ませるために、新居に泊ることにした。  路子は、初七日が終わった頃に、夫の運転する車で子供も連れて戻って来た。 「夫の仕事の都合がついたので、伯母さんのところに皆で泊まることにしたよ。智也さんたちが新婚旅行から帰るまで、みんなで居てあげるから寂しくないよね」 と笑みを浮かべて路子は言った。 智也は、その路子の放った『笑み』の意味に気付けなかった。  

 決まっていた結婚式の一カ月前に、徳造が急死。智也とすみれの結婚式は、四十九日の法要が済んでから、予定より少し遅れたが、無事に滞りなく行われた。  楽しいはずの新婚旅行、旅行中のふたりだけの時間、常に不安が付いて回り『あのお義母さんで私の夢は叶うのだろうか?』と頭の中で、すみれは、自問自答することが多くなっていた。  やはり、徳造夫婦とまず会ってから、養子縁組を承諾するべきだったと、すみれは後悔をしていた。  

それでも『智也と一緒だから何とかなる』と勝手に自分の都合のいいように解釈していた。  一週間後、智也とすみれは、新婚旅行から帰って来た。    ウメ(姑)とすみれ(嫁)そして智也、三人の第二の人生の幕開けとなった。  

 

 建てたばかりの新居に、智也たち夫婦より先に、路子家族が一カ月ほど住んでいた。  新居は一階に座敷が二間、客間、キッチンとお風呂が、二階にはリビングと寝室、子供部屋があった。  路子家族は、ウメの部屋と二間続きの座敷に寝泊まりしていた。使っていたのは、その座敷とキッチン、風呂場だけではあったが、新居に自分たちが入る前に他人が寝泊まり、キッチンやお風呂を使うというのには、新居への夢と現実のギャップに言葉を失ったすみれであった。  

 すみれたちが、夜遅くに新婚旅行から帰って来て、すぐ目にしたものは、キッチンのシンクに山積みになったお皿とお鍋。  シンクに、何回も出前を取った時の汚れたお皿をそのままにして、数時間前に路子家族は帰ってしまっていた。  

 すみれは、旅行疲れもあったが、キッチンをそのままにはしておけないので、服を着替え、エプロンをして洗い物を始めた。洗い終えた時には、日付が変わっていた。  

 徳造とふたりで交わした約束ではあったが、こんなことになるとは想像もしていなかった。『家事は、徳造夫婦がやってくれるのではなかったのか。舅の方が残ったのならいざ知らず、姑がいるのだから、自分たちが食べた後の食器は洗っておいてほしかった。洗って当然なのではないのだろうか』すみれは、こんなことを考えながら眠れない一夜を過ごした。  

 朝が来た。徳造との約束は『何でもいいのなら食事は作るから、お手伝いしてくれる程度でいい』と言われていた。食事はウメが作ってくれると解釈して、少しのんびりしていたら智也が、 「朝ご飯作らないと」 と言い出した。 「なんで?家事はしてくれると言っていたよ。 お義父さん亡くなってもお義母さんいるから、約束は有効でしょう」 「それはそうなのだけれど、なんか様子がおかしいのだよね」 一階に降りてウメの部屋を覗いたら 「ご飯まだか?」 とウメが智也に言った。  

 どうも智也が、ウメに聞いたところによると、家事は徳造がしていたらしい。夫婦だけで気ままに過ごしていた徳造とウメ。  まさか徳造は、自分が先に死ぬとは、思ってもいなかっただろう。自分がウメの世話をするつもりで、智也夫婦に世話をさせる気はなかったようである。  

 徳造が、ウメより先に亡くなって、路子たちも帰ってしまった。ウメは、いっそう孤独感を味わっていた。  ウメは、短期間で起きた生活の変化に、対応できずに混乱していたのだった。  仕方がないので、すみれは『初めての朝食作りでもしましょうか』と一階のキッチンに下りて行った。冷蔵庫を開け、目を疑った。玉子すら入っていなかった。  

 すみれは、朝食が作れるぐらいの用意は、あるものだと勝手に思い込んでいた。  お味噌とワカメはあった。あとお米を研いで炊いた。初めての記念すべき朝食は、質素なものとなった。  朝食の片付けもしない、買い物に行こうともしないウメに、すみれは『どういうつもり?』と聞きたい気持ちを抑えた。  

 そういえば、ウメの歩いている姿を見ていない。二年間の交際期間中に、二度ほど顔見せ程度の訪問をしたが、その時も、ウメはいつも座ったままであった。  徳造の葬儀の時は、ウメの親戚たちが取り囲んでいたこともあり、まだ六十代のウメがつたい歩きなんて、すみれは思いもしなかった。  

 徳造の葬儀で、よたよた歩いているのを、親戚の人が支えていたのは、悲しみのあまり歩くこともままならないのだと、すみれは思っていた。   年齢は六十八歳だが、ウメには介護がいることを、新婚生活初日に突き付けられてしまった。  

 徳造は『生活費はすべて出すから、その分貯めておきな』とも言っていた。  ウメにかかる食費も貰えないまま、数カ月が過ぎた。すみれは、智也の実母せつに、 「生活費どころかお義母さん(ウメ)の食費も貰えないのです」 と訴えたら、 「親から食費を取るものやない」 とたしなめられてしまった。  すみれは、徳造が生活費を出してくれると約束したとも言えず、モヤモヤが残った。  

 実はこの頃、世の中はバブルがはじけて、多くの会社が倒産していた。智也の会社も倒産こそ免れたが、ボーナスは出ないし、給料は上がる気配すらなかった。  ウメは、イチゴを四パック箱買いして、少しだけ食べ、自分の部屋で腐らせていた。  それを見たすみれは、ウメに『自分の分の食費だけでも入れて欲しい』と言いたかった。  

 まだ若い智也の給料では、大人三人分の生活費とウメの病院代までは、まかなえなかった。これから子供が出来たら、ミルク代もかかるし、子供のために貯めるお金の余裕などないと、すみれは不安になった。  

 給料日前になり、『買い物に行くお金ないなあ』と思いながら、キャッシュコ―ナーで通帳を記帳した。千円あった。すぐにおろそうとしたら、何と間の悪いことに、機械が『故障』と表示されてしまった。  係の人が出てきて、 「申し訳ありません。いくらご利用でございますか?」 すみれは、小さな声で、 「千円お願いします」 と言いながら『何で壊れるのよ』と心の中で呟いた。恥ずかしさと、情けなさで心がつぶれそうになった。  

 数日後、よくよくお風呂のバスタブをみてみると、小傷が無数についていた。ステンレスのバスタブをどうもブラシで擦り洗いしたようだ。  勝手口の一段下がったコンクリートが崩れている。『これは、なんだ?』と思い、施工した左官屋に電話してみた。 「お宅に来ていた子供が『まだコンクリ乾いてないから乗ったらダメ』と言ったのに、自分が帰った後に乗ったらしい」 と左官屋に、そちらの落ち度だから直せないと言われた。  こちらのしたことなので直してもらえず、家を建て替えるまで記念のように崩れたまま残っていた。 

 すみれが苛立ちを募らせる原因は、それだけでは終わらなかった。 廊下になにやら黒い小さな塊が、無数に落ちている。ウメが使っている部屋の縁側には、ふたつの楕円形のしみ跡がついている。  ウメは、どうも排尿障害もあるようだった。縁側の楕円形のふたつのしみ跡は、ズボンがお小水で濡れたまま、外から帰り、そのまま縁側に腰を下ろしたためについた、お尻の跡だった。  そうすると、廊下の無数の乾燥した黒い物体は何なのだろうか。それは、その日のお風呂事件でとんでもない結末をみた。 

 ウメのあとにお風呂に入った智也が、大きな声を出して飛び出してきた。 「お風呂に何か浮いている。うんちみたい」 「ええ、うそでしょう」  すみれは浴槽の水面を凝視。 「信じられない。うんちだ」  それからお湯を抜き、洗い、もう一度お湯を入れかえたが、すみれはお風呂に入る気には、なれなかった。 

 それからはウメが入浴したあとには、必ずもう一度お風呂を洗い、お湯を入れかえた。 新築の家も甘い新婚生活も傷だらけ、そしてすみれの心は荒んでいった。 

 すみれは思い出していた。結納の次の日に、近所のおばさんから、こんなことを言われていた。 「すみれさんは、女神様みたいだね。徳造さんも安心して天国にいけたね」 「何のことですか?」 と、すみれは聞いた。 「同居して病気の年寄りの面倒をみてもいいなんて、女神様でないと出来ないでしょう」 『病気の年寄りの面倒?介護の事?』すみれは、心の中でつぶやいた。女神様の意味が理解できないまま、いつまでもどんよりとした気持ちだけが、残ってしまっていた。 

 ウメと一緒に住んでみて、すみれは『女神様』の意味がやっと理解できた。 『私は騙された?私は、女神なんかじゃあない』すみれはそう思いながら、その日の夜、すみれは智也に 「家を出よう」 と言ってみた。 そしてこうも続けた。 「智也さん、お義母さんの排尿障害のこと知っていた?」 智也も知らなかったらしく、首を振り、うなだれた。  次の日、智也が、すみれに手紙を書いて渡した。  ④につづく

 

 

 

「騙された」と思い

「家を出よう」と智也に言ったすみれ

それに対して

すみれに手紙を書いた智也

何が書いてあったのでしようか?

お楽しみに・・・