「ラ・マンチャの男を千回演ったのだから、弁慶を千回演らなければ、それは幸四郎ではない」
とキッパリ言い切った九代目松本幸四郎丈が本日10月15日、東大寺奉納大歌舞伎
として奈良東大寺大仏殿前で、歌舞伎の「勧進帳」を弁慶役にて千回上演を達成した。
「負けない強さ」を持つ松本幸四郎丈の「有言実行」の雄姿を見届け、
まんまる満月に照らされた藤間昭暁氏(本名)が花束を受け取る姿に涙した。

「キッパリ言い切った」と冒頭に書いたが、そう話した幸四郎丈の肉声を
生で聞く幸運に、僕は恵まれた。松竹が勧進帳千回を計画に載せただろう
頃の2004年8月27日、東京全日空ホテルあかつきの間で催された記者
懇話会に僕は出席した。同年10月20日、名古屋にて記事を発表した。
その記事を、松本幸四郎丈ご本人から確認を賜ることもでき、嬉しかった。

今日は、以下にその記事を再録し、松本幸四郎丈への祝福と致します☆


新たなる旅立ちです

この秋、役者・松本幸四郎が北海道から
沖縄まで日本全国を縦断する旅に出る。
歌舞伎の名作「勧進帳」を携えて、
待ち焦がれる観客の元を訪れる。
演じる当たり役「弁慶」は、
逃亡の旅を強いられた「負けない強さ」の男。
この旅の途中、愛知県芸術劇場で、
遍歴の旅を繰り返す幸四郎に、出逢う…

絵ハガキをきっかけに旅に出る

 11月に全国20都市で巡業公演を行う松本幸四郎さん。きっかけは
彼の「勧進帳」を観た女子大生が、沖縄に引きこもった父にぜひ
見せてやりたいと綴った一枚の絵ハガキだった。「便りをくれた彼女
のような、観たい、見せたい、という方の元に出向いて歌舞伎を披露
するのも、歌舞伎役者の大事な務めです。地方のお客様は役者の演技
を見逃さないぞと、食い入るようにご覧になる。役者も熱がこもります。
私も役者を50年以上もやっていると、自分が何のために役者を
やっているのか、分からなくなることがある。そんな思いを特に
新たにさせてくれるのが巡業公演です。今回の全国巡演は、役者
松本幸四郎の新たなる旅立ちのスタートなのです」

ドン・キホーテ、弁慶と旅人を演じ続けてきた

 幸四郎さんが「勧進帳」で演じる弁慶は、今回の巡演で通算750回
以上を数える当たり役中の当たり役。20代にアメリカで英語で主演
したこともあるミュージカル「ラ・マンチャの男」では、スペイン
の英雄ドン・キホーテを1000回以上も演じた幸四郎さんだけに、
弁慶の1000回にも期待がかかる。「不思議なもので、遍歴の旅を
繰り返すドン・キホーテを演じ続ける私が、逃亡の旅を続ける弁慶を
演じ重ねている。これが役者・幸四郎の遍歴の旅だと実感します。
キホーテを1000回やったのだから、弁慶を1000回やらなければ、
それは幸四郎ではない。体の続く限り弁慶を演じ続け、ひとつの夢
として抱き続けていたい。幸四郎の新たな旅は始まったばかりです」

親から子へ受け継ぐ、役者の旅

 今にも飛び出そうな勢いの写真の弁慶は、勧進帳の終幕で飛び六法
で花道を引っ込む一瞬のもの。歌舞伎の屈指の旅立ちのシーンだ。
満身の力を込めて花道を駆け抜けていく。
「私の祖父・七代目松本幸四郎は、生涯に弁慶を1600回以上も勤めて、
家の芸として『高麗屋の弁慶』を築きあげた人です。晩年に心臓を
患っていた時も、『初めて俺の弁慶を見るお客様もいるんだ』と、
幕が閉まるまで常に全力投球でした。また父の白鸚の弁慶は、ご覧に
なったお客様が『弁慶はこんな人だったのかも』と、役の存在感を
評価されたものでした。そして私の弁慶は、歌舞伎の型と心理描写を
より融合させ、現代の観客に感動を与えるように演じたい。
それが平成の歌舞伎役者幸四郎の仕事であり、
次の世代への自分のメッセージだと思います。

手にかけた我が子の活躍には目をみはるものがある。
息子の市川染五郎は歌舞伎座で徳川綱豊役を演じ切った。
娘の松たか子はミュージカル「ミス・サイゴン」で堂々と歌っている。
長女の紀保もシアターナインスを継いでくれる。
皆、私と同じ旅路を辿っているのかと思うと、感無量です。


コメント
本っっっ当に歌舞伎が好きなんだねぇ。
芝居に関する文章は、文字が歓びに跳ねまわっているよ。

ありがとう。幸四郎丈のプロフェッショナルとしての「宣誓」を見届けて
模様を記録したMDディスクを保持し再現できる至福を噛みしめます。

幸四郎丈は「自分自身」は無論、外部とも「闘っている」と感じとれる処が
僕なりに気に入っています。日刊スポーツ紙の林尚之記者が報告記事に、
「人を傷つけることは誰でもできる 人に感動を与えることはなかなか
できない なお一層励むように(…と大仏様が言っております)」という
幸四郎丈の幕後の挨拶を見出しに採り上げて下さいましたが、幸四郎丈
は「外部」に向けても感情を吐露したと僕は感じました。拍手喝采です。

生で観る歌舞伎は「なまら」いいものだと北の大地に向けて伝えましょう。

松本幸四郎丈は、巡業公演により地方のお客様に歌舞伎を披露している
だけであって、数をこなしているのではありません。04年の巡業で沖縄
で歌舞伎を披露されましたが、正式公演としては戦後初と加筆します☆

ありがとうございます。東大寺といえば後日にHOTEIこと布袋寅泰
がコンサートを行いましたね。布袋君といえば94年のやはり東大寺での
「あおによしコンサート」に出ていたのをテレビで観たのを思い出します。

関西には上方歌舞伎が在るのに、歌舞伎を企てる気運が少ない様ですね。
お国自慢ではなけれど、名古屋の歌舞伎を、より熱く盛り上げたいです。

ありがとうございます。もちろん歌舞伎が本当に好きですが、歌舞伎の
胸を借りて、何とか自分を支えていきたいという試みを、しています。

僕は松竹の歌舞伎を体験する前に、名古屋・大須の歌舞伎一座の舞台に
焦がれました。そして公演を二回、全て見届ける幸運にも恵まれました。
一座の歌舞伎で育った人間としての、ささやかなプライドも、あります☆