写真は歌舞伎座二階東吹抜に飾られた片岡球子さんの画「花咲く富士」
歌舞伎の片岡巡りとは、片岡仁左衛門丈を初めとする松嶋屋一門の芝居
と芸に対する姿勢に触れて、結婚して片岡となった自分の覚悟を極める
試みだが、「片岡」性の人物が登場する演目もまた然り。その代表格こそ
当月に歌舞伎座昼の部で上演中の「雪暮夜入谷畦道」で、主人公の「直侍」
こと片岡直次郎が大活躍。江戸の風俗を写実に描写した芝居を相方と鑑賞
して目で味わい、幕後は直次郎にならって美味い蕎麦を銀座の名店で粋
にすすって舌で味わうという、「歌舞伎の愉しみ」を満喫した夜であった。
片岡直次郎を演じる尾上菊五郎丈は、男の色気を醸し出す芝居をすると
絶品。追われ身の小悪党のニヒルな目配り、尻端折りした裾からのぞく
白いナマ足などセクシィで、御婦人はタマラないだろう。逃亡中に寄る
蕎麦屋で熱々のカケを汁も飛ばさずススるさま、お猪口に浮かぶ邪魔者
を箸で仕留めて燗酒をあおるさま、店を出て降る雪を蹴散らかすように
番傘をまわし差しするさま、どれをとっても「サマ」になる。火鉢またいで
縮みあがったナニを温める「ご愛敬」も、遊び人の粋を匂わす音羽屋なら
では。観た後に「何だか蕎麦食べて帰りたいね」という気になる名場面だ。
脇の役者の芝居も良い。追手の尾上菊十郎が、ベリベリした台詞で幕を
開けてダラしなく蕎麦をかっこむのも、澤村田之助の按摩が飛び出た麺
を目にするわけもなく蕎麦を流し込むのも、すべて主役の片岡直次郎を
ひきたてる「蕎麦芝居」で、薬味のネギをちょこっとずつ入れるのが粋
なのかしらと、幕後を夢見る舌なめずりを早くもしてしまう名演の連続。
蕎麦屋の灯篭に書かれた文字も気が効いていて、下手側は「千客萬来」で
おなじみだが、上手側は「大入叶」とあり女形六代目中村歌右衛門が番付
に披露した縁起文句だそう。検索して見た暖簾で「なるほどコレか」と納得。
http://store.shopping.yahoo.co.jp/kameya/ns-7431.html
つなぎ場に出た市川團蔵の暗闇の丑松がこれまた、ピリリ辛口の演技で
ワルでズルそうなチンピラを好演。前幕でつとめた長尾謙信の骨太な悪
と好対照で、菊五郎劇団の悪役商会のボス筆頭だ。「練塀小路の旦那」と
台詞で言い表す「河内山宗俊」が、我らが地元・名古屋で坂東三津五郎丈
が評判を取っているだけに、「頼む~御園座夜の部に~!」と心の中で
叫んだのを、隣でワクワクしながら観ていた相方は気付いただろうか…
待ちに待った尾上菊之助丈の登場。前幕の「廿四孝」の武田勝頼で涼しげ
な麗しき若殿とさほど趣は変えず、冷やかさが薄幸に映る花魁・三千歳を
しっとりと熱演。恋人の直次郎を恋しく思うラブラブ故の「ぶらぶら病」は、
「会いたかった!」と飛び出てくる切羽詰まる程の激情で、伝わってきた。
清元の名曲「忍逢春雪解」を背に所作中心に表現する、恋人同士を親子で
演じる「二人の逢瀬」は、何とも言えない風情で、「うっとり」しっ放しだ。
甘いラブロマンスを苦い別れに変える追っ手登場は、直次郎の悪あがき
の逃亡を背に、恋人を追い駆けたいのに下女に止められどうにもならぬ
三千歳の、「直さん…!」の悲痛の叫びと嘆き顔が、どうにも切なかった。
憂い顔の幕後を、次幕の中村福助丈の舞踊「英執着獅子」で、華やかな傾城
と勇ましい獅子で賑々しく気分も変えて会場を後にできるのが、歌舞伎
のいいところである。按摩の丈賀に「片岡の旦那、片岡のダンナ!」と
連呼までして持ち上げられ気を良くしてしまい、前幕の「本朝廿四孝」に
触れてないのに気付いた。手短かに言うと「動く錦画の最高峰」だろう。
中央の尾上菊之助丈の武田勝頼は、真っ赤な着物に紫の裃というビビッド
な出で立ちで、刀の束に添える手を高めにして綺麗に魅せる静止の芝居。
まるで人形のような怜悧さで、そのまま名古屋城の菊人形展に盗み出し
たくなる美しさだ。坂東玉三郎丈が二十年振りに勤める赤姫の代表格の
八重垣姫は、振袖の豪華絢爛な刺繍を新体操のリボン演技のごとく自在
に美しく恰好良く魅せる至芸を披露する。また、指の付け根を内側に反
らす手先のしなやかさは、華麗な姫の所作を一点に集中させる見事さで、
玉三郎丈本人が言う「ぼんじゃりした」風情は、一途な恋に生きる姫様の
初々しさとして醸し出されていた。中村福助丈演じる腰元・濡衣は、薄く
描いた眉が薄幸さを出していて、ワケありオンナの趣を放っていました。
順序が乱れたが、獅子に変貌した福助丈の激しい毛振りで沸いた会場を
そそくさと後にして、銀座の蕎麦名店「明月庵 田中屋」に直行。カケ
ふたつを相方と速攻でススって、名古屋行きの新幹線に乗り込み爆睡。
歌舞伎前には、片岡孝太郎丈が雑誌「演劇界」で馴染みの店と紹介していた
高級イタリアンレストラン「アルポルト」でランチを満喫。公演中は体を
冷やさないように冷たい料理は控え、夏芝居を打ち上げたご褒美に冷製
カッペリーニを頂くという孝太郎丈の真摯さに感じ入り、片岡仁左衛門
一家で召し上がるという料理のひとつから、公表は控えますがカクテル
グラスで提供される芸術品ともなる至高の逸品を、心から味わいました。
六本木イタリアンと銀座蕎麦を添えた歌舞伎座十月大歌舞伎夜の部でした☆
歌舞伎の舞台全体を絵面として見るのもいいけど、役者の気迫や所作の
ひとつひとつを観てほしいと思って、前列を獲りました。普段は三階東
の桟敷席で斜めから舞台全景を見渡しつつ役者の動きを見つめて、時折
舞台に魅入る観客のさまを眺めるのです。久しぶりに役者さんを間近に
観て、もしかして眼が合っているんじゃないかと思うほどでした。また
演目を選んで、一緒に観に行きましょう。その前に映像も観ないとね☆
歌舞伎の片岡巡りとは、片岡仁左衛門丈を初めとする松嶋屋一門の芝居
と芸に対する姿勢に触れて、結婚して片岡となった自分の覚悟を極める
試みだが、「片岡」性の人物が登場する演目もまた然り。その代表格こそ
当月に歌舞伎座昼の部で上演中の「雪暮夜入谷畦道」で、主人公の「直侍」
こと片岡直次郎が大活躍。江戸の風俗を写実に描写した芝居を相方と鑑賞
して目で味わい、幕後は直次郎にならって美味い蕎麦を銀座の名店で粋
にすすって舌で味わうという、「歌舞伎の愉しみ」を満喫した夜であった。
片岡直次郎を演じる尾上菊五郎丈は、男の色気を醸し出す芝居をすると
絶品。追われ身の小悪党のニヒルな目配り、尻端折りした裾からのぞく
白いナマ足などセクシィで、御婦人はタマラないだろう。逃亡中に寄る
蕎麦屋で熱々のカケを汁も飛ばさずススるさま、お猪口に浮かぶ邪魔者
を箸で仕留めて燗酒をあおるさま、店を出て降る雪を蹴散らかすように
番傘をまわし差しするさま、どれをとっても「サマ」になる。火鉢またいで
縮みあがったナニを温める「ご愛敬」も、遊び人の粋を匂わす音羽屋なら
では。観た後に「何だか蕎麦食べて帰りたいね」という気になる名場面だ。
脇の役者の芝居も良い。追手の尾上菊十郎が、ベリベリした台詞で幕を
開けてダラしなく蕎麦をかっこむのも、澤村田之助の按摩が飛び出た麺
を目にするわけもなく蕎麦を流し込むのも、すべて主役の片岡直次郎を
ひきたてる「蕎麦芝居」で、薬味のネギをちょこっとずつ入れるのが粋
なのかしらと、幕後を夢見る舌なめずりを早くもしてしまう名演の連続。
蕎麦屋の灯篭に書かれた文字も気が効いていて、下手側は「千客萬来」で
おなじみだが、上手側は「大入叶」とあり女形六代目中村歌右衛門が番付
に披露した縁起文句だそう。検索して見た暖簾で「なるほどコレか」と納得。
http://store.shopping.yahoo.co.jp/kameya/ns-7431.html
つなぎ場に出た市川團蔵の暗闇の丑松がこれまた、ピリリ辛口の演技で
ワルでズルそうなチンピラを好演。前幕でつとめた長尾謙信の骨太な悪
と好対照で、菊五郎劇団の悪役商会のボス筆頭だ。「練塀小路の旦那」と
台詞で言い表す「河内山宗俊」が、我らが地元・名古屋で坂東三津五郎丈
が評判を取っているだけに、「頼む~御園座夜の部に~!」と心の中で
叫んだのを、隣でワクワクしながら観ていた相方は気付いただろうか…
待ちに待った尾上菊之助丈の登場。前幕の「廿四孝」の武田勝頼で涼しげ
な麗しき若殿とさほど趣は変えず、冷やかさが薄幸に映る花魁・三千歳を
しっとりと熱演。恋人の直次郎を恋しく思うラブラブ故の「ぶらぶら病」は、
「会いたかった!」と飛び出てくる切羽詰まる程の激情で、伝わってきた。
清元の名曲「忍逢春雪解」を背に所作中心に表現する、恋人同士を親子で
演じる「二人の逢瀬」は、何とも言えない風情で、「うっとり」しっ放しだ。
甘いラブロマンスを苦い別れに変える追っ手登場は、直次郎の悪あがき
の逃亡を背に、恋人を追い駆けたいのに下女に止められどうにもならぬ
三千歳の、「直さん…!」の悲痛の叫びと嘆き顔が、どうにも切なかった。
憂い顔の幕後を、次幕の中村福助丈の舞踊「英執着獅子」で、華やかな傾城
と勇ましい獅子で賑々しく気分も変えて会場を後にできるのが、歌舞伎
のいいところである。按摩の丈賀に「片岡の旦那、片岡のダンナ!」と
連呼までして持ち上げられ気を良くしてしまい、前幕の「本朝廿四孝」に
触れてないのに気付いた。手短かに言うと「動く錦画の最高峰」だろう。
中央の尾上菊之助丈の武田勝頼は、真っ赤な着物に紫の裃というビビッド
な出で立ちで、刀の束に添える手を高めにして綺麗に魅せる静止の芝居。
まるで人形のような怜悧さで、そのまま名古屋城の菊人形展に盗み出し
たくなる美しさだ。坂東玉三郎丈が二十年振りに勤める赤姫の代表格の
八重垣姫は、振袖の豪華絢爛な刺繍を新体操のリボン演技のごとく自在
に美しく恰好良く魅せる至芸を披露する。また、指の付け根を内側に反
らす手先のしなやかさは、華麗な姫の所作を一点に集中させる見事さで、
玉三郎丈本人が言う「ぼんじゃりした」風情は、一途な恋に生きる姫様の
初々しさとして醸し出されていた。中村福助丈演じる腰元・濡衣は、薄く
描いた眉が薄幸さを出していて、ワケありオンナの趣を放っていました。
順序が乱れたが、獅子に変貌した福助丈の激しい毛振りで沸いた会場を
そそくさと後にして、銀座の蕎麦名店「明月庵 田中屋」に直行。カケ
ふたつを相方と速攻でススって、名古屋行きの新幹線に乗り込み爆睡。
歌舞伎前には、片岡孝太郎丈が雑誌「演劇界」で馴染みの店と紹介していた
高級イタリアンレストラン「アルポルト」でランチを満喫。公演中は体を
冷やさないように冷たい料理は控え、夏芝居を打ち上げたご褒美に冷製
カッペリーニを頂くという孝太郎丈の真摯さに感じ入り、片岡仁左衛門
一家で召し上がるという料理のひとつから、公表は控えますがカクテル
グラスで提供される芸術品ともなる至高の逸品を、心から味わいました。
六本木イタリアンと銀座蕎麦を添えた歌舞伎座十月大歌舞伎夜の部でした☆
歌舞伎の舞台全体を絵面として見るのもいいけど、役者の気迫や所作の
ひとつひとつを観てほしいと思って、前列を獲りました。普段は三階東
の桟敷席で斜めから舞台全景を見渡しつつ役者の動きを見つめて、時折
舞台に魅入る観客のさまを眺めるのです。久しぶりに役者さんを間近に
観て、もしかして眼が合っているんじゃないかと思うほどでした。また
演目を選んで、一緒に観に行きましょう。その前に映像も観ないとね☆
