「雲消し」
「先生はなんでも、空の雲を自在にお消しなることができると伺いましたが、本当でございましょうか?」
「あ、空の雲な。ナニ、造作もないことじゃ。いま、やって見せるでな」
「え?本当でございますか?」
「ああ・・・。ほれ、あの東の空に浮かぶ大きな雲があるじゃろ」
「はい、確かに」
「今から念をかけるでな」
「念を・・・」
「ただ、ずっと待っておるのは大儀じゃろう。消えたところを見せるで、また1時間後にここに来なされ」
「分不相応」
地球から十数光年離れた銀河系のとある星団に、太陽系と全く同じ環境の天体の集団があることは知られていない。そして、そこには地球と全く同じ環境を有する兄弟星ともいうべき惑星もまた存在していた。ただ、兄弟星とは言え、地球との間には数千年以上の文明の開きがあった。
その兄弟星の美しい海岸で、ある夜、その星のトップレベルにある2人の男の会話が交わされていた。
「長老さま、我が星随一といわれるチャネラーからの情報によりますと、例の太陽系第3惑星、即ち地球と称される星に住む生命体の意識レベルですが、ここ数十年で急速な進化がみられたようでございます」
「うむ、そうか。彼らもようやく精神的な原始時代を卒業する時期に至ったというわけか」
「はい。つきましては、そろそろ我々が直接、彼らに指導を行ってもよいのではないかと」
「物質レベルで・・・、というわけじゃな」
「さようでございます」
「彼らの地に降り立ち、宇宙の理を伝える」
「正にその通りでございます」
「なるほど。では、まずその準備段階として」
長老はおもむろに人差し指を夜空の一角に向けると、こう言った。
「あの星に、我らが人類の第1歩を印すことから始めよう」
長老の指先には、「月」があった。