「月給50万」
「心理セラピー」というジャンルは気になったが、月給50万円、経験不問という触れ込みにつられ、男はその会社の面接に向かった。
椅子をすすめられ、しばらく仕事の内容を聞いた後で本題に入った。
「ずばり、月給50万円というのは本当でしょうか?」
「その通り、間違いない。ただ、少しく説明すると、こういうシステムになっておる。ワシのセミナー料金は先ほども説明した通り、1回15万円。で、キミにはこれに月3回参加してもらうことになる」
「え、よろしいのですか?」
「もちろんじゃ。君は社員になるんじゃから、遠慮は無用。まして受講費は君が払うのじゃから」
「えっ?・・・ということは。まさか、その3回分が給料の中に」
「さよう、これはまあ、社員としての自覚の証ということにもなるかな」
「つまり、手取りの月給としては・・・」
「5万円、ということになるな」
男は席を立ち、踵を返した。
「リクルート」
口八丁でも、笑いと涙が取れればセミナーに人は集まる。毎月のように右肩上がりに参加者が増える中、そろそろ一人での運営が厳しくなってきたと考えた女は、決して安いとは言えないセミナーにほぼ毎回顔を出す若い女性に声をかけた。もはや信奉者に近いといっていいだろう。セミナー終了後に彼女を呼び止め、誰もいなくなった会場の席に二人して座った。
これからのセミナーを一緒に盛り上げて行ってほしい。そう誘われた若い女性は、飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ただね、貴女をがっかりさせるかもしれないけど」といって、女は給料について口を開いた。それを聞いた若い女性は、その金額のあまりの低さに一瞬驚いた顔をして黙り込んでしまった。だが、これは予想通りの反応だ。もうひと押し。女は言葉をつないだ。
「でも、とっておきのボーナスがあるのよ。しかも毎月」
若い女性は顔を上げ、その目に期待の光を滲ませた。
「いい?私のセミナー、毎月、全部出席すると45万円かかるわよね。それ・・・全部タダにしてあげる」
「?」
「ということは、どういうこと?このボーナスの45万円を加えれば、あなた、その若さで、実質的には毎月50万円を稼いでるってことよ!これって、すごくなーい!?」
若い女性は小さくかぶりを振って席を立ち、一礼して会場を後にした。