『河内源氏』(中公新書) | 鞭声粛粛、夜本を読む

『河内源氏』(中公新書)

鞭声粛粛、夜本を読む 面白い本のガイド-河内源氏    源頼朝や義経、木曽義仲、足利尊氏、新田義貞などの直系先祖である 「 八幡太郎義家 」 。清和源氏の家系を名乗った後の武将たちから最も崇拝されました。

  武田信玄や村上義清、礼法弓馬術・小笠原流で知られる小笠原家などが後に連なる 「 新羅三郎義光 」 。八幡太郎義家の弟でした。時代小説には頻繁に???登場しますね。

  彼らの祖父、源頼信こそは、 「 今昔物語 」 に荒々しいエピソードをのこし、その後源氏=清和源氏=武家の棟梁の家というイメージを確立した 「 河内源氏 」 の祖です。河内に所領を持ったため(力業でゲットした、という感じが強いが)河内源氏と呼ばれます。

  この頼信の11世紀前半の武功から、12世紀後半の頼朝の鎌倉幕府開闢までの約160年間に起きた河内源氏のジェットコースター的な浮沈を一般向けに書いた新書が 『 河内源氏 頼朝を生んだ武士本流 (元木泰雄著、中公新書、初版2011年9月)。しっかりした内容を保つ中公新書らしい1冊。

サーチ「源氏の共食い」と自力救済

  源氏とはいったい何だったんだろうか、と何となく知りたくなったら、お薦めしたい新書です。権力中枢との血縁が複雑に絡み合った中流貴族の源氏。時の権力の在りかを読み違え、血で血を洗う間柄にもなりました。

   「 辺境の夷狄鎮圧はもちろん、王権の守護においても第一人者の地位を確立した 」 河内源氏でしたが、その後 「 源氏の共食い 」 と言われる血塗られた嫡流争いや所領争いを相次いで起こし、隆盛する家運は衰え、没落していきます。こうした盛衰を通して、摂関期から院政期、その後の所領を媒介にした中世・鎌倉時代が見えてくる内容にもなっているといえましょう。

  義朝が親兄弟との武力衝突を辞さず処刑も断行し、院政期における貴族社会の中ではい上がっていきました。だが、平治の乱では 「 日本第一の不覚人なりける人(この世に2人といない大馬鹿者) 」 =藤原信頼を頼みとしたことから、自分が朝敵のレッテルを貼られ、平清盛の圧倒的な攻撃を受けます。潔い降伏や討ち死にを選ばず、板東への逃亡を企てたことについて、本書は実に優れた解釈をしています。

   「 追い詰められても、あえて生き延びようとした点に、板東の自力救済の世界を生き抜いてきた、義朝の真骨頂があった。彼は謀反人となろうとも、武力で立場の逆転を図ったのである。天皇・朝廷も相対化し、自らの力量のみを頼って最後まで生き抜こうとしたことになる。こうした思想は、頼朝に、そして鎌倉幕府に継承されていく 」

サーチさらに知るには

  この新書は著者の一連の一般向け書籍のうち、河内源氏の盛衰に関する部分の最新の研究成果を反映させたダイジェスト版と言えそうな本だと思います。

  著者の解説にもっと接したいなら、一般向け書籍には 『 源満仲・頼光 』 『 保元・平治の乱を読みなおす 』 『 平清盛の闘い 』 『 武士の成立 』 などがあります。

  それぞれ当ブログの書評は
『 源満仲・頼光 』 (清和源氏と美濃源氏発展の礎を解説)
http://ameblo.jp/benseishukushukuyoruyomu/entry-11169513555.html

『 保元・平治の乱を読みなおす 』(兵乱の重層的な真相とその後を解説)
http://ameblo.jp/benseishukushukuyoruyomu/entry-11213660906.html

『 平清盛の闘い 』 (独裁までの紆余曲折と清盛の目指した新統治システムを解説)
http://ameblo.jp/benseishukushukuyoruyomu/entry-11193591502.html

『 武士の成立 』 (武士という身分が成立し、政権を担うまでの長大な歴史を解説)
http://ameblo.jp/benseishukushukuyoruyomu/entry-11229485613.html


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