「どうぞ。」

埼玉県警の捜査課。
熱心に刈谷氏殺害の調書を調べていた上川と井村に、埼玉県警の足立巡査部長がコーヒーを入れて、二人の前に置いた。

「すいません。お手数をおかけします。」

井村が丁寧に頭を下げた。足立は二人の前に椅子を持ってきて腰をかける。

「しかし、青柳殺害から妙なつながりが出てきましたね。」

「ええ・・・。しかし、なぜ青柳が刈谷氏と・・・。」

上川が首をひねりながら答えた。

当時の調書の内容はこうだった。

2年前の8月12日。一人で自宅にいた刈谷氏が、何者かによって殺害された。凶器は台所にあったと思われる包丁。死因は出血性ショック死だった。自宅からは現金数十万円が盗まれており、もの取りによる犯行と思われた。
当時、妻の刈谷恵美子は、友人宅へ出かけていて不在。そのことは、訪問していた友人がアリバイを証明していた。
当時、刈谷氏の家に宅配便が来ていたのを、近所の住人が見ていたことから、犯人は宅配便を装い刈谷氏を殺害した線が浮かんできた。宅配便の業者に確認したところ、業者の車が2週間前に盗難にあっていたことが判明した。当時刈谷氏宅に止められていた車と同一のものと思われた。後日、盗難にあっていた車両は、現場から10キロほど離れた山中で発見されたが、犯人を特定するような物証は得られなかった。

「しかし、この事件・・・なにか青柳の父親がひき逃げされた事件と似ていますね・・・。」

井村がつぶやく。

「そうだな。盗難車によっておこされた事件という点では符合するが・・・。」

井村の言葉に、上川が腕組みをしながら言った。

「この事件・・ちょっと妙な点がありましてね・・。」

今度は足立が口を開いた。

「妙な点というと?」

上川の質問に足立が答える。

「ええ。刈谷氏が殺されていたのはダイニングルームなんですが、どうして宅配便の業者を装った犯人を、簡単に家に上げてしまったのか。そして、当時の現場の状況から、刈谷氏はダイニングルームで差sれて、殺されている・・・。しかも、キッチンにあった包丁でです。それも真正面から見事に左胸を一突きされていたんです。おかしいと思いませんか?」

「たしかに、宅配便の業者とはいえ無防備すぎますね。しかもキッチンの包丁を使ったのなら、もっと争った形跡があってもいいですね・・・。」

上川が腕組みをしたまま、うなづいた。

「そこで、私達は妻の恵美子を疑ったわけです。恵美子は刈谷氏が死んだことで、刈谷氏の遺産をまんまとせしめたわけですから、動機はあります。しかし、アリバイは完璧でした。彼女はその時間、間違いなく友人宅を訪問していました。」

「警部、この点でも青柳の父親の事件とも似ていますね。事件に関係していた人間のアリバイが完璧なところも・・・。」

井村が上川の顔を覗き込みながら言った。上川は、じっと何かを考え込むように宙を見つめていた。


~つづく~