「け・・・警部!興奮しないでください。」

井村が苦しそうに言った。上川が思わずつかんだ井村の襟元から、あわてて手を放した。

「いや、すまん。で、誰なんだそれは?」

「はい、それが意外なところでして・・・・一昨年亡くなった資産家の刈谷朝雄氏の自宅なんです。」

刈谷氏は有名な自動車会社の元社長で、大変な資産家で知られていた。しかし、上川が驚いたのはそれだけではなかった。

「まて!刈谷氏といえば、一昨年強盗にあって殺されたあの刈谷氏か?」

「はい、そのとおりです。」

そう、刈谷氏は一昨年、宅配便を装った強盗に襲われ、刺し殺されていたのだ。その刈谷氏に青柳が何度か電話していたという。これはいったいどういうことなのだろう。上川は思いもよらなかった事件の展開に、しばし呆然としていた。青柳は刈谷氏とどのような関係があり、何のためにそこへ電話したのだろう。そもそも刈谷氏が殺されたことは当時の新聞でも大きく取り上げられ、青柳もそのことを知っていたはずだ。それなのになぜ電話などかけたのだろう。上川の頭の中をぐるぐると疑問が渦をまいていた。

「で、今刈谷氏の自宅には誰が住んでいるんだ?」

上川が井村に尋ねた。

「はい、刈谷氏の奥さんが一人で住まわれています。刈谷恵美子、34歳です。」

「刈谷氏が殺されたとき、彼は70を過ぎていたんだろ?ずいぶん若い奥さんをもらったもんだな・・。で、自宅の場所は?」

「はい、埼玉県内になります。」

「そうか・・・それじゃ、埼玉県警にも協力を要請しないといけないな・・。」

上川が自分のあごに手をやって、考えるように言った。

「それは、私が先ほど電話を入れました。事件当時の調書も用意してくれるそうです。」

井村が言うと、上川が井村の肩をぽんとたたいて言った。

「手回しがいいな。よし、それじゃすぐにでも埼玉県警に向かおう。」

「ハイ!」

上川はいすにかけてあった自分の上着を取り、早足で部屋を後にした。


~つづく~