全員が開いたドアのほうに目をやった。そこには大き目のサングラスをかけたセレブ風の女性が立っていた。まひると広瀬がカルバドスを訪れた際に、二人に話しかけたあの女性だった。その女性がサングラスを取りながら言った。

「あら、お久しぶりね・・・。」

その女性の顔を見た瞬間、早瀬が立ち上がりながら言った。

「・・れ・・・礼子!?」

そこにいたのは、矢島や早瀬の同級生の氷室礼子だった。礼子は、かつて矢島のことを見下し、由加利と早瀬の仲を裂いて、早瀬を自分のものにしようとした女性だ。早瀬にしてみれば、この突然の再会に驚きを隠せなかった。それは由加利や矢島とて同じだった。

「お前、何しに来たんだ?それに今日はここは貸切だ。そとの札見なかったのか?」

早瀬が口調を荒げながら言った。しかし礼子は落ち着き払っている。

「あら、私も日本にいるときは時々ここに来ていたのよ。マスターの作るカクテルは最高だし。」

「礼子・・・あのなぁ!」

そう言いながら早瀬が礼子に近づこうとしたそのとき、矢島が早瀬の肩をつかんで引き止めた。

「やめろ、早瀬。」

「矢島、いいのか!?こいつは・・・。」

そういいかけた早瀬を制して、矢島が続けた。

「いろいろあったが同級生だろ?それに・・・・。」

矢島が清水のほうにちらりと目をやりながら続けた。

「ひとつあいている席にコースターが置いてあるだろ。それでピンときたんだが、氷室さんが言うように時々ここに氷室さんが来ていたなら、納得がいく。当然マスターは氷室さんのメールアドレスや電話番号くらいは知っていただろうしね。今日僕らがここに集まることはマスターは大分前からわかっていたわけだし・・・。今日この日に氷室さんが偶然やってくるなんて不自然だ。おそらく、誰かさんがおめでたいこの日に氷室さんを呼んで、昔のことをきれいさっぱり水に流させようと考えたんじゃないかな?ね、マスター・・・。」

矢島が清水のほうを向いて言ったので、全員が清水のほうへ目をやった。清水はすこし恥ずかしそうな笑顔で答えた。

「やれやれ・・ばれてしまいましたか。恐れ入りました。」

清水が頭を下げたので、早瀬が気の抜けたような声で言った。

「なんだ・・・マスターの仕業か・・・それなら納得いくな。」

早瀬はまたいすに腰を下ろす。こんどは礼子の方がばつが悪そうに口をひらく。

「私は・・・別に仲直りとかじゃなく・・・マスターに呼ばれたから・・・。」

「氷室さん、素直じゃないよ。」

矢島が冷やかすように言った。早瀬も口ごもりながら言った。

「ま、マスターの心遣いじゃしょうがない。礼子、座れよ。」

礼子が遠慮がちにカウンターに座ると、早瀬が礼子にビールを注ぐ。

「さて・・・じゃあ、乾杯といこうか?」

矢島がグラスを上げる。早瀬がたずねた。

「で、なにに乾杯だ?」

「そうだな・・・30年前のクラス会のやり直しっていうのはどうだ?あの時は俺がクラス会をぶちこわしてしまったから・・・。」

矢島がそう言うと、阿南がすまなそうに言った。

「いや・・・あれは俺が・・・。」

「いや、俺も同罪だし、礼子もだ・・・。ま、それもみんな水に流そうや。」

早瀬が答えた。由加利も同意するようにうなづいた。

「それじゃ、30年前に乾杯!」

全員がグラスをあわせ、涼しげな音が店内に響いた。



~了~