その日の夜。

矢島は早瀬、由加利、阿南、葵、そして妻の京子と共にカルバドスに集まっていた。店のドアには、「本日貸切」の札がかけられている。

矢島は親友と共に愛娘の結婚を祝ってもらおうと、この日2次会を企画したのだ。もちろん、場所はまようことなくこの店に決めていた。カウンターの中には、二人の仲人を勤めた清水が、忙しく準備を進めている。

「良かったなぁ、矢島。俺も本当にうれしいぞ。息子の分まで二人には幸せになってほしいな。」

阿南が雄一郎のことを思い出しながら言った。阿南にしてみれば、一人息子を失ったことで、矢島の娘であるまひるのことを、心から心配していたのだ。自分の息子のことで、まひるを傷つけてしまったことを自分のせいであるかのように感じていたからだ。

矢島がすこしさびしそうな口調で答える。

「お前にそういってもらえてうれしいが・・・反面複雑だよ。」

矢島もまた、雄一郎のことをずっと気に病んでいた。それだけに、阿南にも娘の結婚の報告を聞いてもらいたかったに違いない。

「阿南、お前も大分人間ができてきたな。昔だったらそんなこと言うなんて想像もできなかった。」

早瀬が冷やかし気味に言った。阿南が、早瀬の背中を乱暴にたたきながら言った。

「おい、俺は昔からこういう性格だぁ!」

その場にいた全員が笑った。その笑顔に清水も満足そうに笑顔を見せる。

「マスター、本当に今日はありがとう。」

矢島が清水に行った。清水は首を振りながら答える。

「いえ、私こそ仲人なんて大役を任せていただいて本当に光栄です。私も、今日の式は一生の思い出になりました。妻も喜んでおりましたし。」

「でも、マスター以外に仲人をお願いできる方、いらっしゃいませんから・・。」

京子が謙遜している清水を持ち上げるように言った。清水がその言葉に頭を下げる。

「さあ、準備ができました。」

清水がゆっくりとカウンターに食事を並べた。料理も得意な清水の手作りだ。彩りよく盛り付けられた料理に全員が目を丸くする。

「それじゃ、乾杯といこうか。」

矢島が言うと、全員がビールをグラスに注ぎ始める。

「今日は俺のおごりだから、みんな遠慮しないでくれよ。マスターも飲んで。」

矢島が清水にもビールを注ぎ始めたときだ。カルバドスのドアが開けられ、チリンとベルが鳴った。


~つづく~