「それじゃ乾杯といこうか。」

矢島が言うと由加利が大きな声で言った。

「あ、そうだ!」

何か思い出したように手を叩いた由加里は、持ってきた荷物の中から何やら箱を取り出してテーブルの上に置いた。

「これ、マスターからの差し入れ!」

早瀬が箱を開けると、中から出てきたのはドン・ペリニヨンのシャンパンだった。

「今日のこと、マスターに話したらこれを渡してくれたんだ。」

「へえ・・また、マスターに借りができたな、矢島。」

早瀬が言うと矢島はうなづいて言った。

「そうだね。こんどお礼をしないとな。」

そんな会話の中で、京子がグラスを並べ始めた。

「で、これは誰が開けるのかな?」

葵が言うと、由加利がボトルを矢島からもぎ取ると、明るい声で言った。

「私が開けま~す!」

由加利は乱暴にコルクを覆っているカバーを外すと、シャンパンを天井に向けながら、親指でぐっとコルクを押した。ポーンという景気のいい音が部屋にこだました。

京子がグラスを持ってくる。由加利がそれにシャンパンを注ごうとしたときに、グラスの数を勘定していた矢島が言った。

「京子、グラスが7つしかないぞ。」

「え?だって、全員で7人でしょ?」

由加利が不思議そうな顔をする。その由加利の肩をぽんと叩いたのは葵だった。

「もうひとりいるでしょ?お前の親友・・。」

「あ・・・まひるの分か・・そうだね。」

京子も笑顔でもうひとつグラスを持ってくる。それに均等になるように、由加利がシャンパンを注いだ。

「よし、それじゃ乾杯だ!」

全員がグラスを合わせ、最後にテーブルに置かれたグラスにも乾杯をした。もちろんグラスは『まひる』へのものだ。

「ところで、二人とも、もう式の日取りとか決めたの?場所とかは?あ、それと仲人!」

由加利が矢継ぎ早にまひると広瀬に尋ねる。そんな由加利の肩をぽんと叩いて早瀬が言った。

「おまえな・・・気が早すぎるだろ。・・・でもまあ、結婚式の日取りは一つしかないだろうけど・・。」

「ああ、そうだな。あの日しかないよな。」

葵は早瀬の言う日取りがいつなのか、ピンときたようだ。

「それに仲人は、あの人しかいないかも・・・そしたら、あとは式場だけだね。」

由加利が納得したように言ったので、矢島が溜息をつきながら言った。

「あのな・・・おまえら、ひとんちの娘の結婚式の日取りとか勝手に決めるな。」

「でも、矢島君だってそう思ってるじゃない。まひるちゃんだって、きっとそうするよ。ね、まひるちゃん。」

まひるは黙ってうつむくようにうなづいた。となりの広瀬が小声でたずねる。

「ね・・・日取りって、いつのこと?」

「あとで話すから・・。ね?」

まひるがそう広瀬に耳打ちした。まひるの頭の中にも、式の日取りは一日しか思いつかなかったようだ。

そして、矢島の家にの中では、楽しそうな話声がいつまでも響いていた。


~つづく~