それから1月くらいおいて、矢島は早瀬を誘い、カルバドスで飲んでいた。奇しくもその日は、まひるが水族館で広瀬とはじめてのデートを楽しんでいた日であったが、それは矢島は知る由もなかった。

矢島は早瀬と清水に、まひるの墓参りに行ったときに起こったことのすべてを話していた。偶然というにはあまりにも奇跡に近い二人のめぐり合い。その事実に早瀬も清水も驚きを隠せずにいた。

すべてを話し終わると、矢島は、持っていたグラスをそっとカウンターに置き、何かを思い巡らしているようだった。隣の早瀬も、ロックグラスを手でもてあそぶように、カラカラとならしながら、そこに注がれた琥珀色の液体を遠い目で眺めている。

「なるほどな・・・。それで俺を誘ったわけだ・・・。」

早瀬はゆっくりとグラスをカウンターに置いた。

「で・・・どうするつもりだ?」

早瀬の問いに、矢島が静かに答える。

「どうするって・・・俺にはどうしようもないだろう?」

「でも、お前はそうなってほしいと感じてることがあるんじゃないのか?」

早瀬はポケットからタバコを取り出すと、火をつけた。

「俺には・・・・。」

矢島はまたグラスを上げ、ゆっくりと酒をのどに流し込みながら言った。

「俺には、とまったままの時計が二つある。ひとつは、小学校の時代に止まってしまった時計・・。」

「もうひとつは、まひるを失ったときの時計か?」

矢島が静かにうなづく。

「もう、その二つの時計は決して動くことはないと思っていた。ついこの間までは・・・」

矢島の言葉に、早瀬は視線を落とす。矢島の言おうとしていることを、今の言葉で早瀬はすべて理解したようだった。

「願えばかなうさ・・・。お前、まひるとの約束忘れたのか?」

早瀬の言葉に、今度は矢島が視線を落とす。遠い昔に交わした大切な約束・・・『あきらめない』という約束を、矢島は思い出していた。

「ひょっとしたら、まひるはこうなることを知っていたのかもしれないな。そうでなければ、お前が俺にこんな話をするようなことにはならないさ。あきらめなければ、必ずかなう・・・そう信じろ。」

早瀬の言葉は、矢島にとって至極説得力を持っていた。自分があきらめかけていたこと・・・かなわないと思っていた願い・・・。矢島はそれを思い返しながら、静かにうなずいた。そんな矢島に、マスターの清水も声をかける。

「きっと思いは届きますよ。わたしも、そう信じます。」

やさしい笑みを浮かべながらそういったマスターの顔を、矢島は見上げながら笑みを返す。

「マスター。何か飲んでくれないか?俺のおごり。」

「はい、いただきます。」

そう言って、清水が冷蔵庫からビールを取り出しグラスに注ぐ。

「乾杯!」

矢島がグラスを上げると、三人は静かにグラスを合わせた。

矢島はそのとき思っていた。二人がもし恋人同士になって結婚でもすることになれば、それは運命に違いない。それとも、いじめを受けていた広瀬を心配した『まひる』が、二人を引き合わせたのかもしれない。どちらにしても、二人は出会うべくして出会ったのだと矢島は思った。そして、二人が一緒になれば自分がかなえられないと思っていたことが、現実になることも矢島は感じていた。

~つづく~