広瀬は自分の向かいに座った矢島のほうに視線を定めたまま、最初の言葉が出てこない様子で、しばらく硬直したような時間が過ぎた。そこでまひるが助け舟を出した。

「前にも話したと思うけど・・・広瀬君よ。お父さん・・・。」

まひるがそう言った所で、改めて広瀬が頭を下げる。その様子を見ながら矢島はやさしく声をかけた。

「緊張しなくていいよ。ま、そういってもはじめての家だから、緊張するのは無理もないが、リラックスしてくれ。」

「は。。。はい。」

広瀬は、まだがちがちの様子でようやく声を出した。

「あの・・・まひるさんとはまじめにお付き合いさせていただいてます。できれば、将来を共にすごしたいと思っています。どうか、まひるさんとの結婚を許してもらえないでしょうか。おねがいします。」


広瀬はやっとの思いでそう矢島に語りかけて頭を下げた。しかし矢島はその言葉に答えようとはせず、話はじめた。

「君は・・・娘との出会いは、運命だとおもうかい?」

唐突にそうたずねられて、広瀬は言葉がでてこない。まひるも、父の質問の意味がわからず、じっと父の表情を見つめた。しばらく沈黙が続いた後、矢島はまた広瀬に尋ねた。

「では、質問の仕方ををかえようか。君は運命の出会いというものを信じるかい?」

「・・・わかりません・・・でも・・・そう感じる出会いはあると思います。」

広瀬はようやく矢島の問いに答えた。

「そうか。」

矢島は何事か思い巡らしているように、ぽつりと言った。

「君は、娘から私のことをどれくらい聞いているのかな?」

矢島の問いに、こんどはまひるが答える。

「私の知っている限りのことは伝えたわ。おとうさんが昔いじめられていたことも、そして、高校のときに大事な人を亡くしたことも・・・。」

矢島はまひるの言葉に何度かうなづきながら、じっと広瀬の顔を見つめている。またしばし沈黙があたりを支配した。

~つづく~