まひるは、自分も広瀬もお互いを名前で呼び捨てにすることで、少しでも気持ちを近く持ちたかった。そうすれば、自然に自分の気持ちが言えるような気がしていた。それでも、自分からそんなことが言えるのかどうか不安があったのは言うまでもない。

一方の広瀬も自分のバックを肩にかけて、なにごとか考えているような様子を見せていた。広瀬は、先に立って歩くまひるの後ろ姿を見やりながら、まひると同じことを考えていた。広瀬もまた、あの日からまひるに対する気持ちが大きく変わろうとしていたのだ。そして、広瀬もまひるにプロポーズするタイミングを考えていたのである。広瀬もそんな思いから、今日まひるにデートの提案をしたのだった。広瀬は自分の肩にかけたバックをなぜか大事そうに手を添えて、まひるのあとを小走りで追いかけて行った。

それぞれの思いを抱きながら、二人はゆっくりと入園口へ向かった。入園口をくぐると、まひるはいつものように広瀬の腕に自分の腕をからませた。


二人は遊園地のアトラクションを楽しみながら、午前の時間を過ごした。その間も、二人はいつ自分から自分の気持ちを打ち明けようか、そのことばかり頭の中をめぐっていた。

そんなことを思いながら午後もそのタイミングをつかめないまま、時間は二人の意思に逆らうように土岐を刻んでいく。ふたりにとっては、なんとももどかしい時間が進む。

そしてあっという間に日が西に傾き始めたころ、広瀬がまひるに言った。

「ここ、今日は夜に花火を打ち上げるらしいよ。見ていくでしょ?」

午前中はぎこちなかった広瀬の「ため口」も、この時間になってようやく自然に口から出るようになっていた。まひるは笑顔を作りながら言った。

「もちろん。どこかいいポジションからみたいね。」

「入園口近くの広場がいいらしいよ。ちょっと早めに場所取りしようか?」

広瀬が園内の案内図を見ながら言った。まひるもそれに同意するようにうなづいた。



そして日が暮れるころ、まひるは広瀬が決めた特等席で、ゆっくりと腰をおろしていた。しばらくして、広瀬が売店からスナックを買って、まひるのもとに戻ってくる。広瀬はそれをまひるに手渡すと、その隣に自分も腰をおろした。

腰をおろした広瀬は、さりげなく自分の手をまひるの手に重ねた。二人にお互いの体温が伝わる。そして、二人の速くなる鼓動も・・。まひるは、そっと広瀬の体に自分の体を寄せると、体を預けるように広瀬に寄り添った。そしてまひるはそっとひとみを閉じ、静かな時間を感じていた。日がゆっくりと西に沈むころ、西日が二人の顔を赤く染めていった。


~つづく~