そして、数ヶ月が過ぎた。

まひると広瀬の交際は、順調そのものだった。休みの日をうまくあわせて、二人はデートを重ねた。まひるはその時間を楽しみに、自分のカレンダーにきちんと印をつけているくらい夢中になっていた。なにより、広瀬の優しさがまひるの心を潤していた。今まで出会ったことのない広瀬の気遣いと優しさ。きっと自分はずっとそんな男性にあこがれていたのだと、まひるは思った。しかし、いつまでたっても広瀬のことば使いは、敬語のままなのが少しさびしかった。気軽に「まひる」と呼び捨てで話してほしかった。しかし、広瀬との付き合いが順調なのもあり、いつしかそれも気にかかることがなくなっていた。

一方の広瀬のほうも、次第に自分の心のうちをまひるに話すことができるようになっていた。そして、心底まひるとのデートを楽しめるようになっていた。もう、広瀬の心に、まひるが自分を離れてしまうというような、不安は微塵もなかった。

そのせいもあるのだろう。広瀬は仕事にも熱が入るようになっていた。朝からてきぱきと仕事をこなし、実績も上げていた。いつの間にか、あの江島とも肩を並べるような営業実績を積み重ね、職場の上司からもほめられることが多くなった。それがまた、広瀬のやる気に火をつけたに違いない。江島もいつしか広瀬のことを小間使いのように使うことはなくなっていた。しかし、江島の気持ちとしては広瀬のことを疎ましく思っていたことはいうまでもない。しかし、今の広瀬には江島がなにか嫌がらせをするような隙もなくなっていた。



そんなある日のことだ。

いつものように仕事を終えて、二人はカルバドスに足を運んでいた。いつの間にか、カルバドスは二人の行きつけの店になっていた。マスターの清水とも話が弾み、落ち着いた時間をそこですごすことができるようになった。

今日もいつもどおり二人はカウンターの一番奥に座っていた。二人とも、会話を楽しみながらグラスを傾けていた。


チリン・・


ドアのベルが鳴ると、背の高い中年の男性が一人で店に入ってきた。男性は、二人とひとつ席を開けてカウンターに腰をかけた。男性は、注文を済ませるとタバコに火をつけた。そして、一服して近くに座っているまひるたちのほうに目を向けると、二人に向かって声をかけた。

「あれ?・・・ひょっとして、まひるちゃんかい?矢島の娘さんの・・・。」

二人が驚いたように男性の方に目をやった。

「覚えてないかなぁ・・・矢島の親友の早瀬だよ。同級生のお葬式のときに一度あってるんだけど・・。」

そう、店に入ってきたのはあの早瀬だった。早瀬もまた、妙な場所での再会にちょっとびっくりしている様子だった。

「隣の子は彼氏かい?」

早瀬にそう聞かれて、まひるはちょっと答えに詰まった。早瀬に話せば、父である矢島に話が筒抜けになりそうでちょっと困ったようだ。

「あの・・・父には内緒にしててくださいね。」

まひるの言葉に早瀬は苦笑しながら言った。

「ここにきてれば、そのうち矢島ともばったり会うこともあるぞ。」

「あ、それは大丈夫です。来る前にマスターに電話してから来てますから・・・。」

「あはは。そうか・・・それなら大丈夫だな。それよりせっかくだから、今日は二人におごろう。もちろん矢島には俺からは何も言わないよ。」

早瀬は、そう笑いながら言った。


~つづく~