まひるは給湯室に駆け込むように入ると、胸を押さえながら大きなため息をついた。まだ心臓がどきどきしている。今まで感じたことのない、不思議な感覚だった。

けさのメールに広瀬から返事がないことは、ある程度予測はしていたが、やはり返事が来ないのはさびしかった。やはり自分から少しはアプローチしなくては、広瀬に自分の気持は伝わらない・・・そう感じたまひるは、思い切ってお弁当を作って会社に早めに向かったのだった。思ったとおり、広瀬は早めに会社に到着し、話もできた。でも、なぜお弁当ひとつのことを言うのにこんなにドキドキするのだろう。やはりこれが広瀬に惹かれている正直な気持ちなのだろうか。

まひるはひとつ大きな深呼吸をすると、コーヒーの準備を始めた。




一方の広瀬は、ゆっくりと自分の席に向かっていた。机の上には、コンビニで買ってきたのだろう、サンドイッチが置かれている。広瀬はそのサンドイッチに眼をやりながら、ゆっくりと席に座った。

まひるはどんな気持ちで自分より速く出社して、こんな風に食事を用意してくれたのだろう。そして、どんな気持ちで自分に弁当を作ってきてくれたのだろう。広瀬の頭の中では、同じ言葉が何度もくるくると回っていた。

やがて、まひるがコーヒーを二つ入れて事務所内に入ってきた。まひるはそのうち一つのコーヒーを、静かに広瀬の机に置いた。

「どうぞ。」

まひるの言葉に広瀬は軽く頭を下げる。

「あ・・・すいません・・。」

「私も隣に座っていいかな?」

まひるは広瀬の返事も聞かずに、広瀬の隣の席に腰をおろした。広瀬はそれを見ながら、まひるが入れてくれたコーヒーに口をつける。コーヒーのいい香りが口いっぱいに広がった。広瀬は、少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりとした口調でまひるに言った。

「あの・・・今朝はすいませんでした。メールに返事もしないで・・・。」

「いいよ。気にしてないし・・・。わたしも、あんなメール、ちょっと意地悪だったよね。ごめんね。」

まひるの表情は、いつもと変わらぬ笑顔だった。この笑顔を見ると、広瀬はなぜだかわからないが落ちつき、ほっとするのを感じた。

「お昼、一緒に食べようね。」

まひるが、嬉しそうに言った。まひるの笑顔に、広瀬は静かにうなづいた。そして、まひるの「好意」にこたえるように言った。

「今日は天気もいいし、外の公園でもいきましょうか?」

「あ、それいいね。」

二人の間に、穏やかな空気が流れた。


~つづく~