「本当にそう思ってる?」

まひるが広瀬の顔を覗き込むように言った。

「ほんとうですよ。」

「そう思ってくれてるなら、いいかげんに私に敬語使うのやめてよ。なんか他人行儀でやだなぁ。」

まひるの言葉に思わず広瀬がうつむく。

「そ・・・そんな、急に言われても・・・。」

「だって、もし私のこといい友達だと思ってくれて、そんな風に言ってくれるなら、もう少し砕けて話をしてくれてもいいじゃない?敬語なんて使われたら、まだ私のこと警戒してるみたい。」

「そうでしょうか・・・。」

広瀬は、口をつぐむ。こうして普通に話せるだけで、広瀬にとっては奇跡に近い出来事だった。それをいきなりため口で話せと言われても、戸惑うのは当然だ。

そんな広瀬の様子を見て、まひるは父の話を思い出していた。

父の大切な人が、父に対して「名前で呼んで」と言っていたというその時の気持が、いまのまひるにはよくわかる気がしていたからだ。まひるとしては、少しでも近づきたいと思っていても、広瀬の言葉遣いがそれを邪魔しているように感じてしまう。まだ、自分とは本当に打ち解けてはいない・・・そう感じていた。父の話のように、ひろせも自分のことを「まひる」と名前で呼んでくれる日がいつかくるのだろうか・・・。

そんな二人に清水が助け船を出す。

「言葉はすべてではないですよ。問題は言葉の意味です。」

清水の言葉に、ふたりはふっと清水の顔を見上げた。

「広瀬さんにとってみれば、まひるさんとこうしてお話をしていることそれ自体に、意味があるんじゃないでしょうか?たぶん、広瀬さんは普段はほかの女性とほとんどお話をされないんじゃないですか?」

そのとおりだった。会社でも、広瀬はほとんど女性と会話しているところを見たことがない。アフターファイブといっても、これだけ普通に自分と話しているのは、広瀬がそれだけ自分に心を開きかけているのかもしれない・・・そう、まひるは思った。

「広瀬さんは、照れくさいだけだと思いますよ。こうしてまひるさんと肩を並べて話すのが。それは、警戒してるんじゃなくて、意識しているだけだと思いますが・・。」

広瀬は思わずどきりとして、自分の胸を押さえた。

意識している・・・マスターの言葉は確信をついていた。確かに自分はまひるを意識している。今まで出会った女性に感じたことのない意識を。

思わず二人は顔を見合わせた。その視線がぶつかると、広瀬はほほのあたりを赤く紅潮させながら、うつむく。そんな広瀬の姿に、まひるはやさしい笑みを送った。


~つづく~