「いいお店ですね。まひるさん、こんなお店よくご存知でしたね。」

「あはは。ここ、父に教えてもらわなければ知らなかったよ。父と一緒に来て、私も気に入ってるんだ。それにここは父にとってもすごく思い入れの深いお店みたいだから、わたしも大切にしたいとおもってるんだよ。」

まひるはテキーラサンライズを一口口に含む。

「思い入れですか・・・。」

「そう。とっても大事なお店なの。ねえ、マスター。この間の話、わたししちゃってもいいのかなぁ?」

まひるは、そういって清水のほうを見る。清水は、丁寧にワイングラスを磨きながら答えた。

「それは、まひるさんがお決めになることですよ。私にとめる権利はありません。」

そういって清水は笑みを作る。まひるはそれにうなづくと、ゆっくりと話し始めた。

「実はね、このお店で父から聞いたんだけど・・・うちの父、昔はひどいいじめにあっていたらしいの。」

「え?」

一瞬、広瀬が言葉に詰まる。

「それでね、高校のときある女性とであって、やっと傷ついた心を癒すことができたんだけど、その女性、事故で突然なくなっちゃったんだって・・・。ものすごいショックだったと思う・・・その話聞いていたら、私も涙が出てきちゃって・・・。」

「お父さんにそんなことがあったんですね・・・。」

広瀬もカクテルを口にする。話を聞いただけで、広瀬は自分の経験と照らして、そのときのまひるの父親がどんな気持ちであったか創造しただけで、口が渇くのを感じていた。

「でも、その後お友達のおかげで何とか立ち直って・・・・・。で、大学のときに母と出会ったのがこのお店なんだって。だから、今でもときどきこのお店に来るらしいよ。たしか、土曜日もこのお店にきてたんじゃないかなぁ。」

そういって、まひるはマスターのほうに目をやった。清水は静かにうなづきながら、答えた。

「ええ、お友達の早瀬さんとご一緒で飲まれてましたよ。まひるさんのことも話していらっしゃいました。」

「え?私の話?どんな話してたの?」

「それは、お父さんにお聞きになったらいいと思いますよ。おそらくお父さんは、まひるさんともっといろいろなことを話したいと思われているでしょうから。」

清水はやさしい口調で答えた。

確かにそうだ。自分は父とろくに話していない時期が長く続いた。本当はもっと早く父といろいろな話をする時間が必要だったはず。それを自分で拒否していたのだから世話はない・・・そう、まひるは思った。

「そうだね。もっと父と話さなきゃならないね。」

まひるは、もう一口カクテルに口をつけた。

「でね、その亡くなっちゃった父の大切な人・・・その人の名前・・・それを私に名づけたって、そのとき初めて言われたの。重いよね、そういうの・・・。」

まひるは、ふたたび胸のおくから湧き出てくる感情を、抑えながら言った。

「でも、それは当然だと思いますよ。きっとお父さんは・・・。」

そこまで広瀬が言いかけたところで、まひるはそれをさえぎるように言った。

「それが思いの。私はそんなに素敵な女性じゃない・・・。」

「そんなことないですよ。まひるさんは十分魅力的です。」

その言葉に、まひるは広瀬のほうに視線を移した。


~つづく~