9時を回るくらいまで広瀬と食事をしたまひるは、広瀬ともにカルバドスへ向かった。あらかじめ、矢島から教わった電話番号へまひるは電話をして、マスターの清水に席を取っておいてもらうことにした。清水は「お待ちしております」と丁寧に答えてくれた。

まひるはこの間の記憶をたどりながら、予約した時間よりやや遅れてカルバドスに到着した。まひるがドアを開けようとすると、反対側からすっとドアが開いた。チリンというベルの音が響く。中からは大きな帽子をかぶって、サングラスをかけた40代くらいの女性が一人で出てきた。服装もブランド物で固めて、いかにもセレブという感じの女性だ。

「失礼・・。」

そう一言言うと、その女性はするりとまひるの横を通り過ぎ、振り返りもせずに店を出て行ってしまった。

常連だろうか・・・まひるは、一人でこのお店に赴いていたセレブの女性が少し気にかかった。一人でここでお酒を飲むのなら、別のお店もあるだろうに・・・そう思った。

まひるは、ちょっと引っかかったものを感じながら、広瀬とともに店に入る。また、ドアのベルがチリンと鳴った。

「いらっしゃいませ。」

清水が二人を笑顔で迎える。一番端の席に二つコースターが置かれている。どうやら、そこが清水の用意していた席のようだ。カウンターにはディタ(ライチのリキュール)とブルーキュラソー(青みを漬けることに使われるリキュール)が並べておかれていた。二人が入ってくると、清水は手際よくそれを片付けた。ほかに入っている客はいないので、おそらくそのリキュールは先ほどの女性客が飲んだもののようだ。

二人は、清水の用意した席にゆっくりと腰を下ろした。一番奥に広瀬が、その隣にまひるが座る。

「なににいたしましょう?」

清水の問いにまひるが答える。

「あ、わたしこの間のやつ。あれ、気に入っちゃって・・・広瀬君は?」

「あ、僕もあまりカクテルとか詳しくなくて・・・・マスターにお任せします。」

広瀬がそう答えると、清水は軽く頭をさげ、「かしこまりました」と答えた。清水は二つのグラスを並べると、オレンジジュースを絞り始める。ひとつはまひるの注文したテキーラサンライズ。もうひとつには、オレンジジュースとウオッカを使ったカクテルを造り始めた、二人はその手際よさにしばらく無言で見入っている。

「どうぞ。」

まひるの前にはテキーラサンライズ、そして広瀬の前にはオレンジジュースとウオッカを使ったカクテルが置かれた。

「スクリュードライバーですね?」

「はい。今日のオレンジは熟成されたものがありましたので、それを使いました。」

清水が答える。まひるは感心するように言った。

「へえ・・・知らないなんていう割には、ちゃんとカクテル知ってるじゃない?」

「あはは・・・これくらいは何とか・・・。」

広瀬は照れ笑いを浮かべながら答えた。

「それじゃ、乾杯しましょうか?」

「うん」

二人は軽くグラスを挙げ、それをあわせた。


~つづく~