「大丈夫だった?」

まひるは、呆然と立ち尽くしている広瀬を気遣いながら言った。広瀬は江島につかまれていた襟のあたりを直しながら答えた。

「大丈夫ですよ、矢島さん。また、高校の時みたいに助けられちゃいましたね・・。」

「あれくらいどうってことないわよ。私嘘は言ってないし・・・。」

そう言って、まひるは今江島が駆け込んだドアのあたりに眼をやった。

「また意地悪されそうになったら、言って。私の言うことは、彼聞くみたいだから。」

「そんなにそうそう助けられてばかりじゃ・・・今度は自分で何とかします。」

「そう・・・がんばって。」

まひるは笑みを浮かべながら言った。広瀬は一礼すると、また事務所の中に入った。

「やるわ、まひる。」

後ろから声をかけられ、まひるが振り向く。そこにはいつの間にか優子が立っていた。

「いつから見てたの?」

「ずっと。ちょっと心配だったから。」

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。さ、仕事に戻ろうか?」

優子はうなづくと、まひると並んで事務所のドアを開けて、中に入った。



その日の夜。まひるはまた広瀬を誘って、外に出かけていた。江島にはっきり言ったので、すっきりしたのだろう。今度は堂々と二人で事務所を後にしていた。出かける前に、背中に江島の視線は感じていたが、それを無視して外に出た二人。建物を出ると、まひるは自然に広瀬の肘に手を添えた。

「今日は私の知ってる店、行こうよ。」

「え?どこへです?」

「この間父に教えてもらったお店。とってもいいお店だよ。食事したらゆっくり飲もう。」

そう言ってまひるは嬉しそうに笑みを浮かべた。まひるは、どうやらカルバドスへ行くつもりらしい。

「父の思い出がたくさん詰まってるお店みたいなんだ。こぎれいでとっても雰囲気があって・・・マスターもとってもいい人。」

「そうですか・・・でも、なんかまひるさんのお父さんに悪いような気が・・。」

「気にしなくてだいじょうぶよ。お父さんにも、こんどまたお店に行っていいか・・ってきいたら、了解してくれたもん。」

まひるはそう言って広瀬の顔を見上げて、ほほ笑んだ。