その翌日。まだショックから立ち直れないまひるは、おぼつかない足取りで学校に向かっていた。

いつもなら、仲のいい友人たちを自分から声をかけて、たのしくおしゃべりをしながら登校するのだが、今日はまひるは自分から誰にも話しかけようとしない。というより、誰も話しかけてほしくなかった。できれば、今日は学校を休みたかったのだが、京子に促されて仕方なく家を出てきたのだ。

「まひる、おっはよ!」

後ろから友人が声をかけた。

「・・・おはよ・・。」

「あれ?元気ないね、まひる。そういえば昨日も休んでたけど、具合が悪いの?」

友人がまひるのことを心配そうに顔を覗き込んだ。

「・・・昨日・・・阿南君のお葬式に行ってたから・・・。」

「阿南君の?だって、密葬だって・・・。」

「・・・阿南君のお父さん・・・わたしのお父さんの親友だったから・・・・。」

「あ、そうかぁ。でも、それにしたって、ずいぶん落ち込んでるね?」

友人はまだ、雄一郎の死の原因が何であるのかを知らないらしい。いずれ、うわさが広まって、知ることにはなるのだろうが、まひるはそんな友人をうらやましく思っていた。

「もうやめよう・・その話・・。」

まひるはそういって歩を早めた。友人はわけがわからず、首をかしげた。



まひるが重い足取りのまま、教室に入った。もうすでにたくさんのクラスメートが登校していて、あちこちで談笑している。いままでと何も変わらない風景。唯一変わっているのは、教室の真ん中にある雄一郎の机の上に花が手向けられていることだけだ。

その花をボーっと見つめるまひる。昨日までの記憶が鮮明によみがえる。

「ほら!なにやってるんだよ!」

大きな声でまひるはわれに返った。

見ると教室の後ろのほうで、雄一郎をいじめていた生徒たち4人が、ボールを手にしてふざけあっている。この少年たちも、まだ雄一郎の死因が何であったのかを知らないようだ。何も知らずにふざけあっている4人を目にしたとたん、まひるは心のそこから怒りを感じてきた。

と、ひとりが投げたボールが、誤って雄一郎の机に手向けられていた花の花瓶に命中した。大きな音とともに、ガラスの花瓶が砕けた。

「あ~あ。阿南のやつ、死んでまでドジしやがって。」

その瞬間、まひるのなかで何かがはじけた。脳裏に昨日までの出来事が鮮明にフラッシュバックする。まひるは持っていたかばんを放り出して、4人の生徒たちに向かっていくと、そのうちの一人、もっとも大柄な男子に平手打ちを食らわせた。

男子生徒は殴られた意味がわからず、一瞬固まった。同時に教室の全員が凍りついた。

「なにしやがんだ!」

男子生徒は、まひるに食って掛かろうとする。しかし、次の瞬間、まひるの平手打ちが再び飛んだ。

「あなたたちこそ、何やってるのよ!人が死んでるのよ!わかってるの!?」

まひるの剣幕は相当なものだった。男子生徒たちも、その勢いに押されてひるんだ。

「・・・何にも知らないくせに!・・・・私なんか・・・私なんか・・・・!!」

まひるの少年たちへの怒りは、いつしか自分に対する怒りにかわっていった。そうだ、自分は何も変わらない。昨日までの自分は、この少年たちと同じだったんだ・・・。

そう思うと、まひるの目からは大粒の涙がこぼれ、まひるはその場に泣き崩れてしまった。そしてクラスメートはそんなまひるの様子を、ただ呆然と眺めるしかなかった。

~つづく~