翌日の月曜日。雄一郎は、いつもより元気よく学校へ向かっていた。昨日葵がくれた夢のような時間の続きを歩いているようだった。葵からもらったストラップは、自分の携帯にしっかりと結びつけていた。ときおり雄一郎は服の上からポケットの携帯を触りながら歩いていった。
「おはよう」
いつもよりもちょっと高い声で、雄一郎は教室に入った。すると、いつもの4人組の男子生徒が、雄一郎を待ち構えていたように近寄ってきた。雄一郎は、いっぺんに現実に引き戻される。今度はいったい何をされるのだろう。そう考えただけで、雄一郎の心は震えた。
「ご機嫌のようだなぁ。阿南・・。」
一人が、雄一郎の肩をぽんと叩いた。思わず雄一郎が首をすくめる。
「何かいいことでもあったのかな・・ええ、おい!」
もう一人が今度はガンを飛ばしながら、雄一郎の顔を覗き込む。すると、すぐ後ろにいた大柄な生徒が、雄一郎の襟首をつかんだ。
「昨日、家の近くをフェラーリが通ったのを見たんだけどさ・・・・助手席にお前がいたように見えたんだけど、勘違いか?」
雄一郎はしまったと思った。家の近くでなく、もっと遠くで会うべきだった・・・まさか、みられていたなんて・・・。雄一郎は顔面蒼白になった。
「おい!答えろ、おら!」
雄一郎は観念したように言った。
「・・・乗ってました・・・。」
蚊の鳴くような小さな声だった。その答えを待っていたかのように、大柄な生徒がさらに襟を締め上げてきた。
「おめえみたいなのが、なんでフェラーリに乗っかってんだよ!生意気なんだよ!」
そう言いながら、思い切り男子生徒は雄一郎の頬を張る。
そんな雄一郎がいじめれれている中で、他の生徒は素知らぬ顔を決め込んでいる。下手に割って入れば自分も巻き添えになる。そんなことは、誰もしたくはなかったのだ。
まひるも、知らんふりで手鏡を見ながら、眉を手入れしている。
「まひる・・・今日はちょっといつもより派手にやられてるね。」
後ろの友達が声をかける。それでもまひるはまったく他人事だ。
「そう?別にあいつだったら、しょうがないんじゃない?」
まひるはそう言ってちらりと雄一郎の方に眼をやった。まだ、大柄の男子生徒が雄一郎の首を締め上げるように襟をつかんで離さない。そんな雄一郎を見て、まひるはただのろまなやつだなと見下すように思っていた。何をやってものろまだからいじめられる。そんなのろまなあいつが悪い・・。そう思っていた。
「おい!答えろよ!あのフェラーリ誰のだよ!」
「そうだ!俺たちだって乗る権利あるだろうが!」
もう何発殴られたかわからない。雄一郎は気が遠くなる。そんな中で、ようやく唇を動かす。
「・・・ジェッツの・・・葵選手・・・。」
「は?葵選手?なんでお前が、あんな選手と知り合いなんだよ!なおさら生意気だ!」
今度はひざ蹴りが雄一郎の腹部を直撃する。雄一郎は思わず体をくの字にまげ、腹部を押さえる。
「葵選手に会ったんだったら、当然俺達の分のサインくらいもらってきたんだろうな?」
理不尽な尋問が続いた。雄一郎が、無言で首を振ると、今度はこぶしで雄一郎の頬を殴る。
「気の利かない野郎だ!仕置きしてやる!」
また腹部にけりが入った。雄一郎は、苦しそうに腹をおさえてうずくまる。その拍子に、胸ポケットに入っていた携帯が音を立てて落ちた。あの、葵からもらったストラップがついている携帯だ。
大柄の男子生徒がそれを拾い上げる。雄一郎があわてて手を伸ばしたが遅かった。
「へえ・・・珍しいストラップだな?これ、去年のジェッツの限定品じゃねえか。これも葵選手からもらったのか?」
「か・・・返して・・。」
雄一郎は苦しそうに腹を押さえながら、手を伸ばして懇願する。しかし、そんなことが受け入れてもらえるはずもない。
「こいつはおれが貰っておく。」
そう言ってその男子生徒は、携帯ストラップを外し携帯だけを乱暴に投げ捨てる。そして、ストラップについている星砂の小瓶を見つけると、それをむしり取りながら言った。
「余計なもんがついてるな。」
むしり取った小瓶は床に投げつけられ、そして踏みつけられた。
パリン!
乾いたガラスの割れる音が、教室内に響いた。その音は、雄一郎の目の前ですべての夢や希望が砕け散るように聞こえた。
雄一郎は、割れてしまった小瓶のかけらと、散らばった星砂を手で拾い始める。誰もがみな、その一部始終を見ていたが、誰ひとりとして声をかけることはもちろん、手を貸そうとはしなかった。もちろん、まひるも。
雄一郎は、集めた破片をポケットから出したハンカチに丁寧に包むと、それをポケットにしまい込み、負確かな足取りで、教室を出て行ってしまった。
「ねえ・・・あれ、ちょっとヤバいんじゃない?」
友人がまたまひるに声をかけた。友人はさすがにやりすぎだと思ったらしいが、まひるは無関心を貫いていた。
「そう?でも、あしたになれば、来るんじゃない?いつもそうでしょ?」
たしかに、いくらいじめられても翌日かならず雄一郎は学校に来る。きっと明日もいじめられるのが分かっていても学校に来るはずだ。そう、まひるは思っていた。
~つづく~
「おはよう」
いつもよりもちょっと高い声で、雄一郎は教室に入った。すると、いつもの4人組の男子生徒が、雄一郎を待ち構えていたように近寄ってきた。雄一郎は、いっぺんに現実に引き戻される。今度はいったい何をされるのだろう。そう考えただけで、雄一郎の心は震えた。
「ご機嫌のようだなぁ。阿南・・。」
一人が、雄一郎の肩をぽんと叩いた。思わず雄一郎が首をすくめる。
「何かいいことでもあったのかな・・ええ、おい!」
もう一人が今度はガンを飛ばしながら、雄一郎の顔を覗き込む。すると、すぐ後ろにいた大柄な生徒が、雄一郎の襟首をつかんだ。
「昨日、家の近くをフェラーリが通ったのを見たんだけどさ・・・・助手席にお前がいたように見えたんだけど、勘違いか?」
雄一郎はしまったと思った。家の近くでなく、もっと遠くで会うべきだった・・・まさか、みられていたなんて・・・。雄一郎は顔面蒼白になった。
「おい!答えろ、おら!」
雄一郎は観念したように言った。
「・・・乗ってました・・・。」
蚊の鳴くような小さな声だった。その答えを待っていたかのように、大柄な生徒がさらに襟を締め上げてきた。
「おめえみたいなのが、なんでフェラーリに乗っかってんだよ!生意気なんだよ!」
そう言いながら、思い切り男子生徒は雄一郎の頬を張る。
そんな雄一郎がいじめれれている中で、他の生徒は素知らぬ顔を決め込んでいる。下手に割って入れば自分も巻き添えになる。そんなことは、誰もしたくはなかったのだ。
まひるも、知らんふりで手鏡を見ながら、眉を手入れしている。
「まひる・・・今日はちょっといつもより派手にやられてるね。」
後ろの友達が声をかける。それでもまひるはまったく他人事だ。
「そう?別にあいつだったら、しょうがないんじゃない?」
まひるはそう言ってちらりと雄一郎の方に眼をやった。まだ、大柄の男子生徒が雄一郎の首を締め上げるように襟をつかんで離さない。そんな雄一郎を見て、まひるはただのろまなやつだなと見下すように思っていた。何をやってものろまだからいじめられる。そんなのろまなあいつが悪い・・。そう思っていた。
「おい!答えろよ!あのフェラーリ誰のだよ!」
「そうだ!俺たちだって乗る権利あるだろうが!」
もう何発殴られたかわからない。雄一郎は気が遠くなる。そんな中で、ようやく唇を動かす。
「・・・ジェッツの・・・葵選手・・・。」
「は?葵選手?なんでお前が、あんな選手と知り合いなんだよ!なおさら生意気だ!」
今度はひざ蹴りが雄一郎の腹部を直撃する。雄一郎は思わず体をくの字にまげ、腹部を押さえる。
「葵選手に会ったんだったら、当然俺達の分のサインくらいもらってきたんだろうな?」
理不尽な尋問が続いた。雄一郎が、無言で首を振ると、今度はこぶしで雄一郎の頬を殴る。
「気の利かない野郎だ!仕置きしてやる!」
また腹部にけりが入った。雄一郎は、苦しそうに腹をおさえてうずくまる。その拍子に、胸ポケットに入っていた携帯が音を立てて落ちた。あの、葵からもらったストラップがついている携帯だ。
大柄の男子生徒がそれを拾い上げる。雄一郎があわてて手を伸ばしたが遅かった。
「へえ・・・珍しいストラップだな?これ、去年のジェッツの限定品じゃねえか。これも葵選手からもらったのか?」
「か・・・返して・・。」
雄一郎は苦しそうに腹を押さえながら、手を伸ばして懇願する。しかし、そんなことが受け入れてもらえるはずもない。
「こいつはおれが貰っておく。」
そう言ってその男子生徒は、携帯ストラップを外し携帯だけを乱暴に投げ捨てる。そして、ストラップについている星砂の小瓶を見つけると、それをむしり取りながら言った。
「余計なもんがついてるな。」
むしり取った小瓶は床に投げつけられ、そして踏みつけられた。
パリン!
乾いたガラスの割れる音が、教室内に響いた。その音は、雄一郎の目の前ですべての夢や希望が砕け散るように聞こえた。
雄一郎は、割れてしまった小瓶のかけらと、散らばった星砂を手で拾い始める。誰もがみな、その一部始終を見ていたが、誰ひとりとして声をかけることはもちろん、手を貸そうとはしなかった。もちろん、まひるも。
雄一郎は、集めた破片をポケットから出したハンカチに丁寧に包むと、それをポケットにしまい込み、負確かな足取りで、教室を出て行ってしまった。
「ねえ・・・あれ、ちょっとヤバいんじゃない?」
友人がまたまひるに声をかけた。友人はさすがにやりすぎだと思ったらしいが、まひるは無関心を貫いていた。
「そう?でも、あしたになれば、来るんじゃない?いつもそうでしょ?」
たしかに、いくらいじめられても翌日かならず雄一郎は学校に来る。きっと明日もいじめられるのが分かっていても学校に来るはずだ。そう、まひるは思っていた。
~つづく~