「わぁ~遅れちゃう!」

都内のマンションの一室。30代と思われる女性が、部屋の中をどたばたと走り回っていた。ショートカットで髪をややブラウンに染めている。どうやら、これから仕事に出かけるところらしい。女性は身支度を整えながら、奥の部屋に向って声をかける。

「ごめ~ん!ごはん適当に作って食べてて!」

どうやら、奥にいる自分の夫に声をかけたようだ。奥のほうから、眠そうな声で夫らしい男が声を出した。

「う~ん・・・わかったよ・・。」

「ほんとごめんね、いってきます~!」

女性は下駄箱からミュールを取り出し、それをつっかけるように履くと、あわただしく外に出ていった。それを確認するように、奥の部屋から太めの男性が顔を出した。顎のあたりに無精ひげを生やした大柄の男性だ。男性は、頭をかきながら、もうひとつの部屋をノックすると、声をかけた。

「おい、颯!起きろ。朝飯つくるからな。」

「はぁい・・・。」

部屋の奥から、これまた眠そうな返事が返ってくる。

男性は、キッチンで朝ごはんを作り始めた。ご飯はすでにたけているので、男性は冷蔵庫から卵を取り出すと、ハムエッグを作り始める。いい匂いが部屋に立ちこめる。

やがて、小学校低学年くらいの少年が部屋から眼をこすりながら出てきた。この子が息子の颯らしい。

「おう、起きたか?ちょうど御飯ができたところだぞ。」

男性は慣れた手つきで、テーブルに朝食を並べる。朝食といっても、もう10時。かなり遅い朝食だ。

「今日は一緒におとうさんと仕事に行くんだろ?早く目を覚ませよ。」

「うん・・・楽しみにしてたから・・・。」

どうやら、この男性は子供と一緒に仕事場に行く約束をしているらしい。いったいどんな仕事場なのだろうか?

「いただきまぁす!」

颯は、ゆっくりと朝食に手を付ける。その間に、男性は自分の部屋に戻って、カメラバックを開けた。大型の一眼レフのデジタルカメラと、望遠レンズが数本入っている。男性はそれを磨きながら、故障個所がないかどうかチェックしている。どうやら男の本業はカメラマンのようだ。

しばらくすると、颯が大きな声で言った。

「ごちそうさま!」

そういうと、颯は自分の食べた食器を重ねて流し台に置きに行く。

「よし、こっちも準備ができたら行くぞ。颯も速く着換えろよ。」

「はぁい!」

そう言いながら颯はバタバタと自分の部屋に戻っていった。その姿をほほえましく男性が見送った。


それから1時間くらいたって、男性は颯と一緒にマンションの外へ出ると、鍵をかけ、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。しかし、颯の方は早く行きたくて仕方ないらしい。

「お父さん早く早く!」

父親の手をひっぱりながら、颯は男性をひっぱるようにエレベータへと急ぐ。

「そんなにあわてなくても大丈夫だよ。」

男性は苦笑しながらエレベーターの前に行くと、下のボタンを押した。


~つづく~