「こっちへ座れ青島。最前列で・・・涼風に一番近いところで見届けるんだ。」
新田が自分の隣の席を指差しながら言った。青島は不確かな足取りのまま、言われたように新田の隣に腰を下ろした。そして、一緒に観戦に来たライバルたちもその後ろの席に腰を下ろす。
「涼風が甲子園に来てよかったな・・・青島。」
「・・・?」
新田の突然の問いに、その意味を図りかねた青島は、ただ黙って新田の顔を見る。
「俺たちが甲子園に来ていたら、俺たちは勝負そのものよりお前をつぶすことに全力を注いだろう。」
「に・・新田さん!?」
新田の口から出た言葉に晴美が驚く。新田もまた、青島と同様のことを青島に対してしていたというのか?晴美は信じられないといった表情で新田を見つめた。
「あいにく俺は涼風のようにやさしくもなければ慈悲深くもない。遅かれ早かれ、俺はお前を分析し、お前が『壊し屋』だと知っただろう。そんな選手、野球界にはいらない。だから、きっと俺はお前をつぶしたろう、どんな手を使ってもな・・。だが・・・俺もまた涼風と出会ってしまった。」
新田が何かを思い巡らすように、夏の日の青空を見上げた。
「涼風は野球が好きで好きでたまらないんだ。本当に野球を楽しんでる。しかし自分はどうだ・・そう考えたとき、俺も野球観が変わった。・・・いや、原点に戻ったというのが正しいかも知れない。ガキのころ、夢中でボールを追いかけていたとき、つらいとか苦しいとかじゃなく、ただ野球を楽しんでいた。だが、野球を続けているうち、それはいつしか『勝つ』ことが目的になってしまった。強くなりたい・・うまくなって誰にも負けない選手になりたい・・・そう考えてしまっていた自分に気がついた。」
「新田さん・・・でも、それは・・。」
新田が次に言おうとしていることが晴美にも伝わったようだった。晴美はそれを言わせたくないように、言葉を挟んだ。
「それは、普通のことですよ。だれだって、野球をやっていれば・・・ううん、スポーツしてる人はみんなそう思うはずですよ。」
新田は自分をかばおうとしている晴美の優しい言葉に、笑みを浮かべながら続けた。
「野球やスポーツは楽しむものだ。そうすることで、相手を尊敬することもできる。俺はそれを忘れていたんだ。きっと、涼風と対戦した連中はみんなそう思ったはずだ。だからみんなこうしてここに集まった。こどものころ、野球が好きで好きで楽しんでいた自分を取り戻すためにな。」
晴美がうしろのライバルたちに目を移した。全員がやさしい笑顔を浮かべながら、うなづいている。晴美は心の中に染み入ってくる感情を抑えられなくなった。みんながひとみのことを思ってくれている。そう思っただけで、晴美は自分のことのようにうれしかった。そして、自然に涙があふれた。
「とりもどそうぜ・・・楽しい野球を。」
新田は誰に言うとでもなく言った。青島が遠慮がちに口を開いた。
「僕も・・・取り戻せるかな・・・。」
「何言ってる・・・・そのためにお前もここに来たんだろう?取り戻したいと思えば、きっと取り戻せるさ。そしたら、きっと涼風とも楽しい野球ができる。」
新田はぽんと青島の肩をたたいた。青島もまた、後ろに控えている『野球少年』たちを見た。誰もがみな、新田の言葉に同意するようにうなづいた。それで気持ちは十分伝わった。青島の目から、再び涙が流れた。
~つづく~
新田が自分の隣の席を指差しながら言った。青島は不確かな足取りのまま、言われたように新田の隣に腰を下ろした。そして、一緒に観戦に来たライバルたちもその後ろの席に腰を下ろす。
「涼風が甲子園に来てよかったな・・・青島。」
「・・・?」
新田の突然の問いに、その意味を図りかねた青島は、ただ黙って新田の顔を見る。
「俺たちが甲子園に来ていたら、俺たちは勝負そのものよりお前をつぶすことに全力を注いだろう。」
「に・・新田さん!?」
新田の口から出た言葉に晴美が驚く。新田もまた、青島と同様のことを青島に対してしていたというのか?晴美は信じられないといった表情で新田を見つめた。
「あいにく俺は涼風のようにやさしくもなければ慈悲深くもない。遅かれ早かれ、俺はお前を分析し、お前が『壊し屋』だと知っただろう。そんな選手、野球界にはいらない。だから、きっと俺はお前をつぶしたろう、どんな手を使ってもな・・。だが・・・俺もまた涼風と出会ってしまった。」
新田が何かを思い巡らすように、夏の日の青空を見上げた。
「涼風は野球が好きで好きでたまらないんだ。本当に野球を楽しんでる。しかし自分はどうだ・・そう考えたとき、俺も野球観が変わった。・・・いや、原点に戻ったというのが正しいかも知れない。ガキのころ、夢中でボールを追いかけていたとき、つらいとか苦しいとかじゃなく、ただ野球を楽しんでいた。だが、野球を続けているうち、それはいつしか『勝つ』ことが目的になってしまった。強くなりたい・・うまくなって誰にも負けない選手になりたい・・・そう考えてしまっていた自分に気がついた。」
「新田さん・・・でも、それは・・。」
新田が次に言おうとしていることが晴美にも伝わったようだった。晴美はそれを言わせたくないように、言葉を挟んだ。
「それは、普通のことですよ。だれだって、野球をやっていれば・・・ううん、スポーツしてる人はみんなそう思うはずですよ。」
新田は自分をかばおうとしている晴美の優しい言葉に、笑みを浮かべながら続けた。
「野球やスポーツは楽しむものだ。そうすることで、相手を尊敬することもできる。俺はそれを忘れていたんだ。きっと、涼風と対戦した連中はみんなそう思ったはずだ。だからみんなこうしてここに集まった。こどものころ、野球が好きで好きで楽しんでいた自分を取り戻すためにな。」
晴美がうしろのライバルたちに目を移した。全員がやさしい笑顔を浮かべながら、うなづいている。晴美は心の中に染み入ってくる感情を抑えられなくなった。みんながひとみのことを思ってくれている。そう思っただけで、晴美は自分のことのようにうれしかった。そして、自然に涙があふれた。
「とりもどそうぜ・・・楽しい野球を。」
新田は誰に言うとでもなく言った。青島が遠慮がちに口を開いた。
「僕も・・・取り戻せるかな・・・。」
「何言ってる・・・・そのためにお前もここに来たんだろう?取り戻したいと思えば、きっと取り戻せるさ。そしたら、きっと涼風とも楽しい野球ができる。」
新田はぽんと青島の肩をたたいた。青島もまた、後ろに控えている『野球少年』たちを見た。誰もがみな、新田の言葉に同意するようにうなづいた。それで気持ちは十分伝わった。青島の目から、再び涙が流れた。
~つづく~