その日の夜。

ホテルの会議室を貸しきって、西応ナインの最後のミーティングが行われていた。

武藤は眼帯をし、また、大石は足にギブスをはめている。その姿は実に痛々しかった。小野田が一番前で立ち上がると、ナイン一人一人を見渡しながらゆっくりと話始めた。

「いよいよ明日は決勝だ。相手は渥美中央。吉良と上野がいるチームだ。下馬評どおりの強豪だ。みんな心してかかれよ。絶対に悔いは残すな!」

「はい!」

全員が声をそろえた。そして、一番後ろに座っている武藤と大石に小野田は目を移した。

「残念なことだが、大石は足の甲を骨折していた。明日の試合の出場は無理だ。武藤も最悪の事態ではなかったが、角膜に傷がついて、まだ視界がぼやけている状況で、普段の力はだせない。よって、二人にはベンチでみんなのサポートに回ってもらう。」

武藤と大石は真剣な目つきで静かにうなづいた。逆に、ひとみは一番前の席で、今にも泣き出しそうにうつむいている。

「よし、それじゃあ明日のオーダーを発表する。」

小野田が一枚の紙を取り出すと、それを手に選手の名前を呼び上げる。

「一番・センター速水!」

「はい!」

「二番・セカンド堀部!」

「はい!」

「三番・レフト浅野!」

「はい!」

「四番・ファースト不破!」

「はい!」

「五番・サード片岡!」

「はい!」

「六番・ライト大高!」

「はい!」

「七番・ショート原!」

「はい!」

「八番・キャッチャー田島!」

「はい!」

「九番・ピッチャー涼風!」

「・・・・・」

ひとみは自分の名を呼ばれても返事をしない。それよりも、大石と武藤に対する自責の念で、頭がいっぱいだったのだ。

「おい、涼風!返事しろ・・。」

隣にいた田島がひとみに小声でささやく。ひとみははっとして顔を上げる。小野田がそれを確認するともう一度ひとみの名を読んだ。

「九番・ピッチャー涼風!」

「は・・はい!」

ひとみは戸惑いながら返事をする。田島はようやくほっと胸をなでおろす。小野田が後を続けた。

「先発するものも、ベンチのものも、みんな同じチームメイトだ。だれが欠けてもチームではない。だから、明日出場するしないにかかわらず、大石と武藤にはベンチに入ってもらう。以上だ!解散!」

全員がぞろぞろと席を立つ。ひとみははれない表情のまま、後ろのほうからみんなについて出て行った。しかし田島だけは、席にそのまま残っていた。

「よし、いいだろう・・。」

小野田はゆっくりと田島に目をやった。

「なんでしょう・・・話って・・。」

どうやら田島は小野田に言われ、ひとり残されたようだ。小野田が口を開く。

「涼風はもう限界に近い。それはお前もわかっているだろう?だが、涼風は責任感が強い上、大石と武藤を怪我させてしまったことを自分のせいだと思い込んでいる。そのためにも、明日は絶対に勝とうという気持ちが強すぎて、入れ込みすぎる危険が大きい。」

「はい・・・僕もそう思います。」

田島も重い口を開いた。小野田は二三度うなづいてから、田島の目をサングラス越しに見つめながら続けた。

「田島・・・涼風を頼むぞ。・・・この意味が、わかるな?」

「監督・・・。」

「明日の試合内容によっては、涼風はつぶれてしまうかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。だから、涼風の相棒のお前が、しっかり支えてやってくれ。この役目はお前以外にはできない。わかるな?」

いつになく真剣な小野田の言葉。いつもは冷たく冷静な小野田が、感情を前に出して語りかけてくる姿に田島もその思いがしっかりと伝わった。

「はい!」

田島は不安はあったものの、そう答えるしかなかった。いや、そうしなければならないと自分に言い聞かせた。いままでは自分がひとみに引っ張ってもらった・・・だから明日はひとみを助けよう。そう心に強く誓った。

田島の言葉に安心するように小野田はうなづいた。

~つづく~