西応ナインは歓喜の中で山原工業ナインと挨拶を済ませると、万感の思いをこめて校歌を歌った。
しかし、ひとみだけは素直に手放しでは喜べなかった。怪我を押して必死にがんばったが、最後に倒れてしまった大石、目の打撲でプレーができなくなってしまった武藤。二人のことを思うと、ひとみは自分の責任を感じてうれしいという気持ちが打ち消されてしまっていた。
一方の青島も、ベンチの中でうずくまったまま他校の校歌を聴いていた。最後の最後に特大のホームランを打たれたショックより、自分の信じてきた道が崩されてしまったことのショックのほうが大きかった。青島もまた自責の念に駆られていたのだ。
試合終了後のインタビューでも、ひとみはいつもの明るい応対ができずにいた。大石と武藤の容態が心配でならなかった。できれば、この場をすぐに飛び出して病院に向かいたかった。そんなそわそわした気持ちのままで、まともにインタビューに答えられるはずもなく、インタビューは早々に打ち切られた。
そしてひとみたちは、選手出入り口で待っているバスへと向かった。
そこで、今敗れたばかりの山原工業ナインとはち合わせになった。ひとみと青島の視線がぶつかった。しかし、抽選会のときに散らした火花とはべつの視線が二人を結んでいた。
ひとみは青島に近寄ると右手を差し出した。
「握手・・・してくれるよね?」
青島は一瞬戸惑いを見せる。ひとみが自分から握手を求めるなど考えられなかったからだ。それは逆に青島には、ひとみが自分に対するいやみで差し出した右手に思えて仕方なかった。
しかし、ひとみの次に出した言葉に青島は自分自身の考えを大きく揺るがされてしまう。
「試合が終わったら、敵味方はないよ。ラグビーでも試合終了は『ノーサイド』って言うんだよね?あれって、試合終了と同時にどちらの選手もなく、お互いをたたえあおうって意味らしいよ。だから、私たちもノーサイドだよ。」
「ひとみ・・・。」
青島は、自分の目頭が熱くなるのを感じた。自然と涙が溢れ出した。
あれだけチームメイトにひどいことをした自分に、ノーサイドと言ったひとみの気持ち。いったいどんな思いで自分と握手をかわそうとしているのだろう。考えただけで、青島は胸の鼓動が全身に伝わるような気持ちに陥った。
本当なら、この場で平手打ちを食らわされても仕方のないはずなのに。事実、以前の自分に対してはひとみはそうして答えた。だが、3年をたった今、ひとみはあのときよりずっと大人で、ずっと大きくなっていた。青島はなんら成長していない自分を恥じた。そして、青島は自分の手をそっとひとみに差し出した。
ひとみはその手をがっちりと握った。自分の思いを青島に伝えるために。
「完敗だ・・・ひとみ。君はやっぱりすばらしいよ。」
青島は本心からそう思っていた。そしてその言葉に静かにひとみも答える。
「あなたも・・なれるよ。すばらしい選手に。次に戦うときは、二人で試合を楽しめることを祈ってる。」
ひとみはそういうと、ゆっくりと青島と交わした握手を解いた。周りにいたファンや取材陣から拍手が沸いた。しかし彼らは知らない。ひとみと青島の間にずっと聳え立っていた高い壁のことを。奈落まで落ちてしまいそうな深い溝を。
~つづく~
しかし、ひとみだけは素直に手放しでは喜べなかった。怪我を押して必死にがんばったが、最後に倒れてしまった大石、目の打撲でプレーができなくなってしまった武藤。二人のことを思うと、ひとみは自分の責任を感じてうれしいという気持ちが打ち消されてしまっていた。
一方の青島も、ベンチの中でうずくまったまま他校の校歌を聴いていた。最後の最後に特大のホームランを打たれたショックより、自分の信じてきた道が崩されてしまったことのショックのほうが大きかった。青島もまた自責の念に駆られていたのだ。
試合終了後のインタビューでも、ひとみはいつもの明るい応対ができずにいた。大石と武藤の容態が心配でならなかった。できれば、この場をすぐに飛び出して病院に向かいたかった。そんなそわそわした気持ちのままで、まともにインタビューに答えられるはずもなく、インタビューは早々に打ち切られた。
そしてひとみたちは、選手出入り口で待っているバスへと向かった。
そこで、今敗れたばかりの山原工業ナインとはち合わせになった。ひとみと青島の視線がぶつかった。しかし、抽選会のときに散らした火花とはべつの視線が二人を結んでいた。
ひとみは青島に近寄ると右手を差し出した。
「握手・・・してくれるよね?」
青島は一瞬戸惑いを見せる。ひとみが自分から握手を求めるなど考えられなかったからだ。それは逆に青島には、ひとみが自分に対するいやみで差し出した右手に思えて仕方なかった。
しかし、ひとみの次に出した言葉に青島は自分自身の考えを大きく揺るがされてしまう。
「試合が終わったら、敵味方はないよ。ラグビーでも試合終了は『ノーサイド』って言うんだよね?あれって、試合終了と同時にどちらの選手もなく、お互いをたたえあおうって意味らしいよ。だから、私たちもノーサイドだよ。」
「ひとみ・・・。」
青島は、自分の目頭が熱くなるのを感じた。自然と涙が溢れ出した。
あれだけチームメイトにひどいことをした自分に、ノーサイドと言ったひとみの気持ち。いったいどんな思いで自分と握手をかわそうとしているのだろう。考えただけで、青島は胸の鼓動が全身に伝わるような気持ちに陥った。
本当なら、この場で平手打ちを食らわされても仕方のないはずなのに。事実、以前の自分に対してはひとみはそうして答えた。だが、3年をたった今、ひとみはあのときよりずっと大人で、ずっと大きくなっていた。青島はなんら成長していない自分を恥じた。そして、青島は自分の手をそっとひとみに差し出した。
ひとみはその手をがっちりと握った。自分の思いを青島に伝えるために。
「完敗だ・・・ひとみ。君はやっぱりすばらしいよ。」
青島は本心からそう思っていた。そしてその言葉に静かにひとみも答える。
「あなたも・・なれるよ。すばらしい選手に。次に戦うときは、二人で試合を楽しめることを祈ってる。」
ひとみはそういうと、ゆっくりと青島と交わした握手を解いた。周りにいたファンや取材陣から拍手が沸いた。しかし彼らは知らない。ひとみと青島の間にずっと聳え立っていた高い壁のことを。奈落まで落ちてしまいそうな深い溝を。
~つづく~