センターに高々と上がった打球を球場全体の観客が総立ちで見送る。センターは二歩三歩さがって、その足を止めた。

誰もが一瞬センターフライかと思った。

しかし・・・


センターは胸元あたりに構えていたグラブを、だらりと下におろした。そのあとは、後ろを振り返るように顎で打球を見送った。


ゴォン!


打球は鈍い音をたてて、スコアーボードにあたり跳ね返ってグランドに落ちた。


しばしの沈黙の後・・・・西応ベンチと応援団が大歓声を上げた。一方の山原工業の応援団もベンチもがっくりとその頭を下げた。


「ホ・・・ホームラン!怪我で途中交代を余儀なくされて、急きょ出場した不破君が・・・なんと、なんと・・・サヨナラホームラン!!まさにドラマ!これぞ野球!そして、この瞬間に、涼風投手の甲子園一大会で2回目のノーヒットノーランが決まりましたぁ!!」

実況のアナウンサーも興奮を抑えきれない。それも無理もないことだった。サヨナラホームランも劇的なら、ひとみの1大会での2回のノーヒットノーランは、大会史上もちろん初めての出来事だったからだ。

ゆっくりと堀部がホームを踏んだ。そして、ナインがホームベース上に集まる。しかし、不破は派手なガッツポーズひとつ見せず、かみしめるようにゆっくりとベースを回っていた。そして、不破が回っているダイヤモンドの中心には、呆然とスコアーボードを見つめて棒立ちになっている青島の姿があった。

青島の目からすでに燃えるような光は失われていた。失投ではない渾身のボールをあそこまでとばされたのだ。そのショックは計り知れなかった。さながら弁慶の立ち往生のごとく、青島は微動だにしない。

やがて不破がホームを踏み、両手を天に向けて大きく上げた。そのあとは、ナインからの手荒い歓迎がまっていた。不破はもみくちゃにされながらも、満面の笑みで喜んでいた。


やがて、呆然と立ち尽くしていた山原工業の選手たちがホーム方向へ戻ってくる。あるものはうつむき、ある選手は涙を流していた。しかし、そんななかでも青島はまだスコアーボードから眼を離そうとはしない。

「おい、青島!」

喜屋武が青島の肩を叩いた。

次の瞬間、青島はがっくりと膝をつき、両手を地面にたたきつけた。

「なぜだ・・・なぜだぁ・・・!」

青島の目から涙が流れ落ちた。青島は小さい頃楽しみにして見に行った野球で起きた悲劇を思い出していた。やらなければやられる・・・それが野球だと思っていた。

だが、自分の全力でぶつかった末に負けた今、青島の心は大きく揺らいでいた。これが野球なのか?自分の信じてきたプレーは間違っていたのか?青島は自問自答しながら、ただ泣いた。自分の手が真黒になって血がにじむまで、今しがたまで立っていたプレートを何度も何度もたたき続けた。


~つづく~