ノーアウトで一塁に足の速い堀部。そしてバッターは浅野。この浅野のバッティングにすべてがかかっている・・・だれもがそう思っていたにちがいない。しかし、新田だけは違う思いでこの場面を見つめていた。

「堀部が一塁に出たことで、浅野のやることは一つだな・・。」

独り言のように新田がつぶやく。

「ひとつ?ヒットかホームランですか?」

晴美の問いかけに、新田は苦笑しながら答える。

「そうじゃない。もちろん、ヒットであればそれに越したことはないが・・・確率からすれば、それはない。浅野はバントで堀部を2塁に送るはずだ。」

「ええ?!」

晴美が目を丸くする。武田も信じられないという表情だ。

「おい、ここは3番の浅野だぞ。それがバント?まさか・・・。」

新田はちらりと武田を見ると、持っていたPCのエンターキーを押す。すると、そこには西応のナインの名前が並んでいた。

「これはおれが予選前に分析した西応のベストオーダーだ。よく見てみろ。」

武田と晴美がディスプレーを覗き込む。

「一番センター速水、二番が・・・サード堀部、三番ライト大高・・・4番が・・・。」

「え?4番ファースト不破さん!?」

二人は驚きを隠せなかった。新田の分析では、ひとみと田島が入ってこなければ、4番を不破が打っていたというのだ。

「おどろいたろ?そして5番がキャッチャー武藤、6番にセカンド大石、7番にピッチャー浅野、8番がレフト片岡、9番がショート原だ。」

「ちょっと待ってください。それじゃあ、なぜ4番を打つはずだった不破さんを監督が外したんですか?」

晴美が新田に詰め寄るように言った。

「不破の一番の弱点は守備だ。守備に負担がかかれば、バッティングにも影響が出る。だから2年まではレギュラーを取れなかったのさ。7番に浅野をおいたのはピッチングに専念させて、楽に打たせるため。こういうオーダーを組めば、実に強力な打線になる。俊足好打の1番2番、長打力のあるクリーンアップのあとに、もうひと組クリーンアップがいるようなもんだ。いわゆるダブルクリーンアップだ。」

「そうか、それで不破をあえてレギュラーから外して、強力な代打として使おうと・・・。堀部も、速水にもしもの時があればすぐに使える。」

武田が納得するように言った。新田が続ける。

「不破は長打力は武藤より上、打率では浅野を上回る打者だ。しかし、守備の難点はなんとかなっても、足が遅く、まもれるポジションが少ない。外野では務まらないだろう。だから、不破を外すしかなかったのさ。その不破が今は浅野のあとの4番にいるってことは・・。」

「あ・・・つまり、浅野さんよりヒットの確率が高いうえに堀部さんの足なら一点取れる!そうですよね?」

「晴美もだいぶ野球がわかってきたじゃないか。それに、不破は予選での出番がほとんどなかった。つまり不破がどれほどの強打者か青島も知らない。だから真っ向勝負してくる。不破のバッティングならそれをはじき返す力は十分あるということだ。」

新田はまるで小野田の気持ちをテレパシーでも使って読んでいるように答えた。


そして、グランドでは新田の予言通り浅野が堀部をバントで二塁に送った。つぎにゆっくりと打席に向かったのは、その不破だった。ワンナウト2塁。一打同点のチャンス。不破はふーっと大きな深呼吸をすると、ばったボーックスに青島を睨むように立った。


~つづく~