9回裏。西応ベンチでは暗いムードが漂っていた。二人の選手を失い、さらにひとみは体力・気力の限界。ひとみはベンチで座ったまま下を向いて肩で息をしていた。

この回は2番から。本来なら大石の打席。しかし、このときバッターボックスに立っていたのは堀部だった。堀部も悪い打者ではないが、守備と打撃力は大石の方が上。打てる確率は低かった。

しかし、スタンドの新田だけは、この回の攻撃に一筋の光明を見出していた。


「この回・・・ひょっとしたら・・。」

新田は自分のPCを打つ手を止めて、じっとデーターを見つめる。晴美がそれを見て声をかける。

「どうしたんですか?」

「この回、堀部が出塁すれば、西応にも活路が見える。だが、無得点なら山原の勝ちが濃厚になる。」

新田は低い声で言った。

「どういうことだ?」

武田も新田のデーターを覗き込みながら言った。新田が答える。

「大石と堀部。タイプは似たバッターだが、長打力・守備力は大石が上だが、堀部が唯一大石を上回っている点が一つだけある。」

「なんだそれは?」

「足だ。堀部の足は、速水の次に早い。内野にぼてっとゴロが飛べば、内野安打になる確率は高い。ひょっとしたらセーフティーバントかもしれない。うまいことに、堀部は予選での実績がほとんどないから、その情報は山原工業には流れていないはずだ。」

「じゃ・・じゃあ、この回チャンスなんですね?」

晴美の顔に光がさしたようだ。

「ああ。そして、もう一人のキーマンが西応にはいる・・・。」

新田はそういうと、その眼をグランドに移した。



青島は大きなフォームから、初球を堀部に投げる。

『俺が出るにはこれしかない!』

堀部はすっとバットを前に放りだすように出すと同時に、一塁方向へダッシュする。


コン!


軽い金属音が響いて、ボールは三塁線へころがった。サードがあわててダッシュしてボールをつかむが、あわてたためか手につかない。堀部はあっという間に一塁を駆け抜けた。



「よっしゃ!」

スタンドで新田が手を叩いた。予想通りのバントヒット。西応ナインは自分の役割をちゃんと理解している。だからこそ、ここまで勝ち上がってきたのだ。新田はこの時点で西応の勝利を確信していた。もちろん新田が積み上げたデータが、その確信を生んでいたことは言うまでもなかった。

~つづく~