大石に次いで武藤まで失った西応高校。スコアーこそ0対0であるが、圧倒的不利に立たされていた。青島の毒牙は、西応ナインに確実に襲いかかっていた。

8回の表のピンチは、7番8番を連続三振で切って取り、ラストバッターをファーストファールフライに抑えて、失点は何とか免れた。

8回の裏。打順は田島から。田島もなんとか粘ろうとするが、150キロのボールを弾き飛ばすのはそう簡単ではない。2-3と粘ったものの、最後はインコース高めのボール球を振らされ、三振に終わる。

続くひとみも、粘りこそ田島とそん色ないバッティングだったが、最後は外のスライダーを打たされ、ファーストゴロになる。

ここで打順は速水に帰った。しかし、チームのまとめ役の大石がつぎに控えていないことは、速水は絶対に出塁しないといけないという想像以上のプレッシャーがかかっていた。

速水はそれでも得意のバントで出塁を狙う。しかし、速水の作戦は完全に読まれていた。青島がそれを軽くさばいてファーストへ送った。きわどいタイミングだったが、判定はアウト。速水は天を仰いだ。

そして、試合はとうとう9回までを両者無得点のまま迎えることとなった。



ひとみは疲れた体を引きずるようにマウンドに上がる。青島のプレーを気にするあまり、神経を予想以上にすり減らしていた。さらに二人のチームメイトを失った今、ひとみの心はおれかけていた。

田島はそんなひとみの心理状態を、キャッチボールをしながら感じ取っていた。このままではひとみはからだばかりか精神力までつぶされてしまう。田島はまたマウンドへと向かった。

「よくここまで切れないで頑張ったな涼風・・。」

いつものそうするように、田島は丁寧に手でこねたボールをひとみのグローブに放り込む。これが二人の儀式になっていた。ひとみもそうして直接ボールを田島からもらうことで、心が落ち着くのを感じるようになっていた。

「ありがと、相棒。」

ひとみは精一杯の笑顔で答えた。しかし、田島はひとみの中にはもうほとんど気力と体力が残っていないことを悟っていた。声の張り、目の輝き、体全体から湧き出るような気迫・・・そのどれもがいつものひとみとは違っていた。もう、ひとみは限界に限りなく近い・・・。

それでも田島は、素知らぬふりをしながらホームへと戻った。この回は1番から。絶対にランナーは出せない。出せば打順が青島に回る。そうなれば、青島はきっとひとみをつぶしにかかる・・。田島はギュッとマスクをかぶりなおすと、ひとみにサインを送った。

1番の我那覇への初球はアウトコースへのスライダー。それをうまくひっかけさせると、ファーストの浅野がそれをさばいてワンナウト。つづく首里は、ひとみの152キロの速球を振らされて三振にとる。そして、3番喜屋武を迎えた。

喜屋武はなんとかして青島につなげようと、コンパクトにバットを振り、くさい球をカットしながら粘り続ける。粘ること12球。ひとみは完全に息があがっていた。それを見て田島が心の中でひとみに叫んだ。

『涼風!頑張れ!』

ひとみはそんな田島の心の叫び声がはっきりと聞こえてきたように感じた。二人の心がこのとき一つになった。ひとみは最後の力を振り絞り、内角高めへ速球を投げ込んだ。

「う!」

喜屋武はあまりの速さに手が出ない。呆然と見送ったボール。喜屋武は審判の方に眼をやった。

「ストライクバッターアウト!」

そして次の瞬間、スタンドから地鳴りのような歓声が上がった。スコアーボードの球速掲示に全員が目を疑っていた。


161キロ


それは女性が初めて叩き出した、球速100マイルの表示だった。

~つづく~