8回表。武藤は眼を腫らしたまま、守備についた。これにはさすがの青島も驚いたようだ。しかしすぐに口元にいやな笑みを浮かべた。
青島は監督に歩み寄ると、一言二言耳打ちする。そして、それに監督がうなづくと、青島も満足そうに笑った。
この回は5番から。ひとみはまだノーヒットピッチングだ。その勢いは全く衰えていない。切れのいいスライダーと150キロ前後のストレートで打者を揺さぶりに来る。2-1と追い込むと、インコースへストレートを投げるひとみ。バッターは、それを強引にレフト方向へ引っ張りに行く。ボールは武藤の前にぼてぼてのゴロになってころがった。
武藤はダッシュしてそのボールを素手で捕まえようとする。しかしあろうことか、手を伸ばしボールには触れたものの、ボールををつかむことができない。あわてて握りなおしたが、すでにバッターは一塁を駆け抜けていた。
記録は武藤のエラー。ノーヒットピッチングを続けているものの、ノーアウトのランナーを出してしまった。この異変の意味をいち早く理解したのはほかでもない新田である。
「まずいぞ・・・武藤が狙われている・・。早く交替させないと傷を広げてしまう・・。」
新田が表情を曇らせる。
「どういうことですか?武藤さんたまたまボールに手がつかなかっただけじゃないんですか?」
晴美がたずねると、新田が両手の人差し指をひとみの目の前に突き出して言った。
「片目をつぶって、両方の人差し指をこうやってくっつけてみろ。」
新田は両手を顔の広さぐらいに広げ、両手の人差し指の先同士を向かい合わせにして、ゆっくりと近づけて指先同士をくっつけてみせる。
「え?簡単でしょ?」
晴美が片目をつぶりながら、新田と同じことをやろうとする。しかし、指はあらぬ方向に突き出され、何度やっても指先同士をくっつけることができない。
「あれぇ・・どうして???」
「なるほど、そういうことか・・・だとすると、武藤は早く病院に行かせた方がいいな。」
武田が納得するように言った。
「ええ?二人だけわかったようなこと言って・・・教えてくださいよぉ!」
晴美が膨れながら、新田の肘のあたりを持って新田の体をゆすりながら言った。
「いいか。目が二つあるのは、その二つの眼と眼の間が開いていることで、見え方に微妙に差ができる。そうすることで遠近感をつかむことができるんだ。言ってみれば、三角測量とおなじさ。」
「じゃあ・・・片方しか見えないと・・。」
新田が晴美の言葉にうなづく。
「そうだ。遠近感がつかめなくなる。さっきのお前のようにな。武藤の場合、まったく見えていないわけではないだろうが、さっきのエラーはこれが原因だ。下手をすると失明の危険だってある。」
「ええ!そんな・・・!」
晴美が両手で口を押さえながら言葉を失う。
「瞼の腫れだけで見えないのなら問題ないが、山原工業の連中がサードゴロを打ち続ければ、怪我している右目に当たらないとも限らない。それに、バッティングでも同じことが起こるわけだから、打撃にも影響が出る。残念だが交代をさせるしかない・・。」
新田が晴美と話をしている間にも、新田が懸念していることが連続して起こっていた。6番打者も4球目をサードゴロ。今度は丁寧にグラブを差し出した武藤だったが、何とこれをトンネル。あわてて、ショートの原がボールを押さえたが、ノーアウト1塁2塁とピンチが広がってしまった。
そして、小野田がゆっくりとベンチから立ち上がり、伝令を走らせた。
伝令に走った選手は、主審に一言二言話をすると、またベンチへと戻った。そして、ベンチからは不破が姿を現した。そして球場にアナウンスが流れる。
「西応高校、選手の交替をお知らせします。サードの武藤君に代わりまして、不破君。4番サード不破君。」
武藤はうなだれたまま、そのアナウンスを聞きながらベンチへと引き上げていく。その背中には無念さと怒りがナインの眼には映った。
~つづく~
青島は監督に歩み寄ると、一言二言耳打ちする。そして、それに監督がうなづくと、青島も満足そうに笑った。
この回は5番から。ひとみはまだノーヒットピッチングだ。その勢いは全く衰えていない。切れのいいスライダーと150キロ前後のストレートで打者を揺さぶりに来る。2-1と追い込むと、インコースへストレートを投げるひとみ。バッターは、それを強引にレフト方向へ引っ張りに行く。ボールは武藤の前にぼてぼてのゴロになってころがった。
武藤はダッシュしてそのボールを素手で捕まえようとする。しかしあろうことか、手を伸ばしボールには触れたものの、ボールををつかむことができない。あわてて握りなおしたが、すでにバッターは一塁を駆け抜けていた。
記録は武藤のエラー。ノーヒットピッチングを続けているものの、ノーアウトのランナーを出してしまった。この異変の意味をいち早く理解したのはほかでもない新田である。
「まずいぞ・・・武藤が狙われている・・。早く交替させないと傷を広げてしまう・・。」
新田が表情を曇らせる。
「どういうことですか?武藤さんたまたまボールに手がつかなかっただけじゃないんですか?」
晴美がたずねると、新田が両手の人差し指をひとみの目の前に突き出して言った。
「片目をつぶって、両方の人差し指をこうやってくっつけてみろ。」
新田は両手を顔の広さぐらいに広げ、両手の人差し指の先同士を向かい合わせにして、ゆっくりと近づけて指先同士をくっつけてみせる。
「え?簡単でしょ?」
晴美が片目をつぶりながら、新田と同じことをやろうとする。しかし、指はあらぬ方向に突き出され、何度やっても指先同士をくっつけることができない。
「あれぇ・・どうして???」
「なるほど、そういうことか・・・だとすると、武藤は早く病院に行かせた方がいいな。」
武田が納得するように言った。
「ええ?二人だけわかったようなこと言って・・・教えてくださいよぉ!」
晴美が膨れながら、新田の肘のあたりを持って新田の体をゆすりながら言った。
「いいか。目が二つあるのは、その二つの眼と眼の間が開いていることで、見え方に微妙に差ができる。そうすることで遠近感をつかむことができるんだ。言ってみれば、三角測量とおなじさ。」
「じゃあ・・・片方しか見えないと・・。」
新田が晴美の言葉にうなづく。
「そうだ。遠近感がつかめなくなる。さっきのお前のようにな。武藤の場合、まったく見えていないわけではないだろうが、さっきのエラーはこれが原因だ。下手をすると失明の危険だってある。」
「ええ!そんな・・・!」
晴美が両手で口を押さえながら言葉を失う。
「瞼の腫れだけで見えないのなら問題ないが、山原工業の連中がサードゴロを打ち続ければ、怪我している右目に当たらないとも限らない。それに、バッティングでも同じことが起こるわけだから、打撃にも影響が出る。残念だが交代をさせるしかない・・。」
新田が晴美と話をしている間にも、新田が懸念していることが連続して起こっていた。6番打者も4球目をサードゴロ。今度は丁寧にグラブを差し出した武藤だったが、何とこれをトンネル。あわてて、ショートの原がボールを押さえたが、ノーアウト1塁2塁とピンチが広がってしまった。
そして、小野田がゆっくりとベンチから立ち上がり、伝令を走らせた。
伝令に走った選手は、主審に一言二言話をすると、またベンチへと戻った。そして、ベンチからは不破が姿を現した。そして球場にアナウンスが流れる。
「西応高校、選手の交替をお知らせします。サードの武藤君に代わりまして、不破君。4番サード不破君。」
武藤はうなだれたまま、そのアナウンスを聞きながらベンチへと引き上げていく。その背中には無念さと怒りがナインの眼には映った。
~つづく~