選手が集まると同時に、グランドに担架が運び込まれた。さすがにこの状態でのプレー続行は不可能だと審判も判断したようだ。それは監督の小野田も同じだった。

「堀部・・・次の回からおまえが行け!」

「え?」

堀部は信じられないといった表情で小野田の方を振り返る。

「聞こえなかったか?大石に代わってお前がセカンドを守れ。それとも、怖いか?」

「そんなことありませんが・・・でも・・・。」

堀部はためらいがちにうなだれる。

「大石の気持ちを思ってか?それとも、涼風のことか?」

「両方です・・。」

「なら、なおのことお前が行け。大石もお前ならポジションを任せられると思っているだろう。涼風も、お前の守備なら安心できるはずだ。」

「・・・はい・・・。」

堀部はまだ後ろ髪を引かれるような思いで、帽子をかぶりなおした。



「大丈夫だ・・・ちょっと足をひねっただけだ・・・!」

担架に乗せられながら、まだ大石はグランドに残ろうとしている。しかしさすがにこの状態ではプレーは続けられそうにはない。浅野が必死に説得する。

「大石、もう十分だ。これ以上続ければお前本当に壊れるぞ。そうしたら・・・・。」

そこまで言いかけて、浅野がすぐそばにいるひとみのほうを振り返る。

ひとみの目はすでに涙でいっぱいになっていた。ひとたび瞬きをすれば、いっぺんに熱いものが零れ落ちそうになっている。ここまで自分のためにがんばってくれた大石。これだけの怪我をしてもなお、自分のためにいまもなおグランドに残ろうとしてくれている。その気持ちが痛いくらいにひとみの心に突き刺さっていた。

「大石さん!」

ベンチから堀部がキャップをかぶって飛び出してきた。

「後は僕に任せてください。しっかり守りますから・・・それと・・。」

そこまで言いかけて堀部は一度言葉を飲み込んだ。

「それと・・・・なんだ?」

大石が苦痛に顔をゆがめながら、言った。堀部が続けた。

「それと・・・大石さんのグローブ。この試合だけ貸してもらえませんか?そうすれば、大石さんと一緒にプレーしているような気がして、きっといい守備ができると思うんです。だめですか?」

大石は真剣な表情の堀部に、苦笑しながら答えた。

「いいだろ。使え。こんなもんがお前のお守りになるならな。」

そういって大石は手にしていたグラブを堀部に手渡した。堀部はしっかりとその手にグラブをおさめた。

「もし必要なら、バットも使っていいぞ。その代わり、俺のバットは重たいから気をつけて振れよ。」

そういって大石は口元に笑みをつくった。それが最後で、大石は自分の顔を自分の帽子で隠すようにベンチ裏に消えていった。おそらく悔し涙を見られたくなかったのだろう。

浅野・武藤・ひとみ・田島らがそれを見送る。出したくなかった負傷退場者・・・しかも守備の要の大石を失ったショックは、ナインにとっても大きな損失だった。

その間も青島だけはそ知らぬ顔で、キャッチボールを続けていた。


~つづく~