ひとみは田島の言葉に何か吹っ切れたようだった。自分のピッチングをすれば、結果はおのずとついてくる。自分たちのためにあれだけ頑張ってくれた新田のためにも、この試合だけは負けられない。

ひとみは下位打線からのこの回を3者凡退に打ち取った。

そしてその裏。


バッターは田島からだった。田島も、ひとみを助けたい一心で、必死に粘りのバッティングを試みる。しかし、青島は田島をなめるように直球のみの勝負にいく。11球を投げさせたところで、セカンドフライに倒れた。

つづくバッターはひとみ。ここで小野田がひとみを呼び、ひとことふたこと声をかける。そしてひとみはそれにうなづくと、ゆっくりとバッターボックスに向かった。

その時青島の表情が変わった。右投げの青島に対して、ひとみは右打席に立ったのだ。ひとみはスイッチヒッターだが、通常右投げのピッチャーの場合は左打席に入る。しかし、この打席に右打席には言った意味は二つあった。ひとつは、左打席に入ると、利き手の右腕がピッチャー方向を向く。もし、デッドボールになったら、ひとみのピッチングに影響が出るのは必至だ。そして、もうひとつはバッターボックスのベースから遠い所にひとみをたたせることで、デッドボールそのものの可能性を消したのだ。小野田は、ひとみのことを守るためだけに右打席に立たせたのだ。

しかし、青島はそれをあざ笑うかのように、アウトコースへボールを集中させる。しかし、ボールが入らない。というよりも、アウトコースにわざと外れるボールを投げている。青島はどうやらランナーにひとみを出してから、潰す方向に変えたらしい。

ひとみがランナーに出ると、小野田が大声でひとみに言った。

「涼風!リードを取るな!」

小野田はリードをとって、青島に牽制のチャンスを与えないつもりらしい。

ひとみは言われるがまま、一歩だけリードを取る。

次のバッターは、先ほどのホーム突入で足をけがしている速水。いつもならセーフティーバントと生きたいところだが、今の足の状態では無理だ。必死にバットを振りながら、なんとかヒットを狙おうとする速水だったが、執拗なインコース攻めで、速水は最後に三振に倒れた。これでツーアウト。

つづくバッターは大石。大石を迎えたところで、青島はにやりと笑った。

「とどめを刺してあげるよ・・大石・・。」

大石はできる限り、あしの痛みを見せないように打席に入った。青島はランナーを気にする様子もなく、振りかぶって初球を投げる。低めのフォークボール。ボールは低めから鋭く落ちて、大石の怪我した足を直撃した。

「ぐあぁ!」

大石がもんどりうって倒れた。あわてて、堀部と不破が救急箱を持って駆け寄る。コールドスプレーで冷やしながら、なんとか痛みをとろうと二人は必死だった。大石もなんとか体を起こして、立ち上がる。そして足を引きずりながら、一塁へと向かった。

そしてバッター浅野を迎えた。大石がとどめに近いデッドボールを受けたことで、浅野は怒りに燃えていた。その浅野のうち気を殺ぐように、アウトコースへ変化球を投げる青島。うまくボールをバットに乗せて、ボールは一塁線へと転がる。しかし、ファーストがこれを押さえて、一塁ベースカバーの青島へとボールを送った。そのとき、ひとみが叫んだ。

「浅野さん、逃げて!」

しかし浅野は果敢に一塁を駆け抜ける。ひとみの眼には、大柄な青島の陰に隠れて一瞬浅野の姿が見えなくなる。

「アウト!」

審判がアウトを宣告した直後、浅野はコーチャーズボックスのすぐわきに倒れていた。どうやら、ベースを駆け抜けた瞬間に、青島が肩を当ててきたらしい。しかし、浅野もすぐに体をひるがえして、なんとか直撃だけはさけたようだ。浅野は青島を一蔑すると、ゆっくりと立ち上がった。

序盤から荒れた試合。これから先、どんな展開が待っているのか誰も予測ができなかった。

~つづく~