速水は左足を痛め、その足を引きずりながら立ち上がった。声をかけようとした浅野を手で制して、自分でベンチへと戻る。

速水は後ろのベンチに腰をかけると、すぐにスパイクを脱ぎ、膝をまくった。見たところ大きくはれている様子はないが、すぐに控え選手がアイスバックを持って患部を冷やす。

「サンキュー。少し楽になった・・。」

速水が、それでも痛みをこらえて、表情をときおりゆがませる。そんな速水は横目でひとみの方に眼をやった。ひとみはまだベンチの陰に隠れるように、両手で顔を覆ったままだ。おそらく、その目からは涙が流れているのだろう。

「涼風・・・俺は大丈夫だ。これくらいじゃつぶされるもんか。」

速水は精一杯の気持ちでひとみを励ました。しかし、普段はおどけている速水が真剣に語りかけてきたことが、ひとみの心に鋭く突き刺さった。本当は立っているのも辛いに違いない。でも、みんなはそれを自分に悟られまいとして、必死に頑張っている・・・そう考えただけで、ひとみは悲しかった。大石につづき、速水までもが青島につぶされてしまった・・・自分のせいだ・・そうひとみは思っていた。

その時ベンチの奥から、大石が顔を出した。そして、膝をアイシングしている速水を見ると、大石が笑いながら声をかける。

「なあんだ、おまえまでやられたのか?だらしねえ・・。」

「大石さん、そんな言い方ないでしょ?大石さんだって、二回も・・・・!」

ひとみが大石の声に思わず振り向いた。ひとみの眼はうるんで真っ赤になっている。

「涼風、何泣いてるんだおまえ?お前、チームメイトだろ?ちゃんと試合を見てろ。」

「大石さん・・?大丈夫なんですか?」

ひとみは心配そうに言った。

「軽い脳しんとうだよ。ちょっとめまいがしただけだ。ちょっと横になったら元通りだ。それに、俺たちだって、半端な練習をしてるわけじゃない。そう簡単に潰せるもんか。」

大石は笑顔で答えた。ひとみの顔にわずかに光がさした。

しかし、実際のところ大石が青島に踏まれた足の状態は決していいものではなかった。まだ、心臓が足にあるように、傷口が拍動している。しかし、大石はそんなそぶりを一つも見せようとはしなかった。大石は3回くらいまでもてば、自然な形で他の選手と交代すればいいい・・そう思っていた。

そんなやりとりがベンチで行われている間に、粘りのバッティングをしていた浅野が、最後はアウトコースのスライダーを振らされ三振を喫していた。

「ようし!次は守っていくぞ!」

小野田が手をたたきながら喝を入れる。

ひとみはまだベンチの陰から顔を出せないでいる。そんなひとみに田島がそっとグラブを差し出した。

「行こう、相棒。みんなのために・・・。」

ひとみはやさしい田島の目を見つめながらゆっくりと立ち上がった。そして、田島の差し出したグラブをふるえる手で受け取る。

「お返ししなきゃな。次は青島からだ・・・。」

田島はぽんとひとみの肩を叩くと、先に立ってグランドに向かった。


~つづく~